早速、お母さんに了解を得たわたしは、次のクラブの休みの日に、詩織先輩と一緒に美容室に出かけた。予約は、詩織先輩が前もって二人分入れておいてくれた。詩織先輩が連れて行ってくれたのは、小さな美容室だった。
「いらっしゃいませ!」
ドアを開けると、若い女の人が、にこやかに迎えてくれた。
「こんにちは、詩織ちゃん。今日はお友達を連れてきてくれたのね。ありがとう!うれしわ!!」
「こんにちは、尚子さん。友達というか、後輩の美穂ちゃんです」
「よろしくお願いします!」
わたしは、詩織先輩の横で、緊張気味に頭を下げた。
「よろしく、美穂ちゃん。わたしは、尚子って言います。」
「尚子さんは、一人でこのお店をやっているんだよ」
詩織先輩がそう教えてくれた。尚子さんは、にっこり頷きながら、
「じゃあ、どちらからカットさせてもらおうかしら?」
そう尋ねると、詩織先輩は、
「尚子さん、実は美穂ちゃん、美容室で髪の毛を切るのが初めてなんです!」
「ちょ、ちょっと、先輩…」
恥ずかしくなって、思わず詩織先輩の服の袖を引っ張ると、
「あら、そうなの?初めての美容室にうちを選んでくれたのね。ありがとう。とてもうれしいわ!じゃあ、腕によりをかけてスタイルよく仕上げないとね!」
尚子さんは、そう笑ってくれた。
「それに、髪の毛も短くするんですって」
「そうなんだ。これは責任重大だ!」
冗談めかしにそう言いながらも、尚子さんはうれしそうだった。その様子に、わたしの緊張も少しずつ消えていった。
「じゃあ、どんなスタイルが似合うか、どんな感じにしたいのか、まずは美穂ちゃんの考えをしっかり聞かないとね」
「はい、よろしくお願いします」
そう言って、わたしはもう一度頭を下げた。
わたしたち三人は、美容室のソファに腰かけ、雑誌やスタイルブックを見ながら、わたしの新しい髪型について相談した。三人であれこれ話すのは、とても楽しかった。ちょっと大人になった気分だった。
「美穂ちゃんは、顔が小さいから、ショートカットもよく似合うと思うわ。また伸ばしたくなるかもしれないから、最初はあまり段を入れない方がいいわね。とりあえず、肩につかないくらいで…」
シャンプーを終えて鏡の前の椅子に腰かけたわたしに、尚子さんがクロスをかけてくれた。家でお母さんに切ってもらう時は、ビニールシートだったけど…。
尚子さんがわたしの髪を梳かしていく。鏡に映った長い髪ともお別れだ。濡れたその髪にそっと触れてみる。
「ザクッ…」
髪の毛が切られる音は、そんなふうに聞こえた。お母さんの切る音より、大きく聞こえたのは気のせいかな。でも、尚子さんのハサミの音は、耳に優しい。
みるみるうちに髪の毛が床に落ちていく。鏡に映る尚子さんの顔は真剣そのものだ。
「今、肩のあたりまで切ってみたけど、もう少し短くしてみる?」
尚子さんは、優しく微笑みながら、わたしに尋ねた。