鏡で確認してわたしは、
「もう少し、切ってもらってもいいですか?」
「了解!」
そう言って尚子さんは、ハサミを握りなおした。真剣な顔つきに戻り、わたしの髪の毛を再び切り始める。
全体のスタイルが整ったようで、次は前髪だ。
「あまり短くない方がいいかな?眉が隠れるあたりくらいでどうかな?」
また、尚子さんが確認してくれる。
「はい、それぐらいでお願いします」
前髪は、お母さんが切るいつもと同じぐらいの長さにしてもらった。
尚子さんのハサミが近づいてきて、わたしは目を閉じる。ハサミを縦に使って、細かくハサミを入れていく。鼻のあたりに落ちてくる髪の毛がくすぐったい。
「カット、終わったよ!一度流して、乾かそうか」
そう言って私の顔とクロスの髪の毛を払うと、尚子さんはクロスを外してくれた。床にはたくさんの髪の毛が落ちていた。
「こんなにたくさん切ったんだね」
床の髪の毛を見て、わたしは少し寂しい気持ちになったが、自分の頭の軽さにも驚いた。
「できたよ!」
ドライヤーのスイッチを切った尚子さんが、鏡の中のわたしに微笑みかけた。
「とってもかわいいよ!」
生まれて初めてのショートカットの自分から目を離せないわたしに、尚子さんはそう言った。ソファに座って雑誌を読んでいた詩織先輩も、わたしの傍にやって来た。
「美穂ちゃん、かわいい!とっても似合っているよ!!」
そう言ってくれた。お世辞でもうれしい。
「これで、バドミントンもじゃんじゃんできるね!」
そうも言ってくれた。
「よろしいでしょうか?」
尚子さんが鏡の中のわたしに最後の確認をする。
「はい。ありがとうございます!」
尚子さんの言葉に、わたしはそう答えた。
「こちらこそ、ありがとね!美穂ちゃんの初美容室と初ショートカットのお手伝いさせてもらったこと、わたしも本当にうれしかった!」
尚子さんはそう言ってくれた。
「じゃあ、次は、詩織ちゃんね」
「はい、よろしくお願いします。」
そう言った詩織先輩と、わたしは交代。今度はわたしが、ソファで先輩を待つ番だ。尚子さんは、詩織先輩をシャンプー台へ案内した。
「家に帰ったら、お父さんとお母さんはなんて言うかな…。紀ちゃんはびっくりするだろうな…。でも、『かわいい!』って言って、また頭を撫でてくれるんだろうな…」
思わず笑みがこぼれた。
初めての美容室には、優しい美容師さんがいた。緊張を少しずつ解きほぐすように、わたしの話を聞いてくれた。一つ一つ確認しながら、わたしを大切なお客さんとして扱ってくれた。尚子さんじゃなかったら、今日のことはもっと違う体験になっていたかもしれない。
シャンプーを終えた詩織先輩の髪の毛を、尚子さんが切り始める。
「次は一人で来てみよう…。尚子さんとももっといろいろ話したいな…」
真剣な眼差しで、詩織先輩の髪の毛を整えていく尚子さんを見つめながら、わたしはそう思った。