自分の髪の毛をさわりながら、詩織先輩はそう答えた。
「ふーん、そうなんだ…」
その時はそれぐらいにしか思わなかったが、四月が終わり、五月のゴールデンウイークを迎え、クラブでの活動が本格化してくると、確かに長い髪の毛は、大変だと思うようになった。
「髪、短くしようかな…」
晩御飯の時に、そうつぶやくと、
「えっ、そうなの?髪切るの??」
と、お母さんがびっくりして、わたしに聞いた。
「毎日、クラブで汗かくし、動き回るにも邪魔かなって思って…」
「美穂は髪の毛短くしたことがないでしょ。せっかく伸ばしてきたのに、いいの?」
「うん、クラブのみんなも短い人が多いし。また伸ばしたくなったら、伸ばせばいいし」
「そうね。それもいいかもね。でも、短くするのなら、もうお母さんが切ってあげられないわね。美容室に行かないと」
「えっ!なんで⁉」
驚いて聞くわたしに、
「だって、今までみたいに前髪と後ろの長さを揃えるぐらいならお母さんにもできるけど、さすがに全体を短くするなんて、お母さんには無理よ。美穂だって、変な髪型になったら嫌でしょ?」
「それはそうだけど…」
「いいじゃない?これを機会にママカットは卒業して、美容室で切ってもらえば!」
二人の話を横で聞いていたお父さんが、ビールを飲みながら、
「美穂も大人の仲間入りだな!」
そう言って笑った。
わたしは、美容室に行ったことがない。今までは、お母さんに髪を切ってもらっていたからだ。友達のほとんどは、小学生の頃から美容室で髪を切ってもらっている。いつもお母さんと一緒に美容室に行く、という子もいた。
「美容室ってどんなところだろう…。どこの美容室に行けばいいんだろう…」
次の日、クラブ活動が終わって詩織先輩と一緒の帰り道、先輩に聞いてみた。
「詩織先輩、先輩は髪の毛って美容室で切ってるんですか?」
「うん、そうだよ。小学校の頃から行っている美容室」
「やっぱりそうなんだ。実は、わたしも髪を短く切ろうかなって思ってて…」
詩織先輩には、美容室に行ったことがないことを、正直に話した。
「えっ、そうなの?行ったことないんだ。別に緊張するようなところじゃないし、美容師さんもいろいろ話してくれるし、セットの方法とかも教えてくれるし。わたしは結構好きだよ」
「そうなんだ…」
不安そうに答えるわたしに、
「そうだ!わたしが行っている美容室、一緒に行ってみる?そろそろ髪の毛切りに行こうかなって思ってたし!」
「えっ、いいんですか?よかった!一人じゃ行きづらいなあって思ってたし、お母さんと一緒に行くのもなぁー…って。ありがとう、しーちゃん!」
クスっと笑う詩織先輩に、
「あっ、すみません。詩織先輩!!」
詩織先輩は、今度は声を出して笑った。