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『もうひとつの家』宮沢早紀

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「リクエストって言ってましたけど……この雑誌、美容室で買ってるんですか?」
「いいえ、常連さんが毎月買って持ってきてくれるんですよ。娘さんの絵を沢山の人に見てもらえたらって」
「なるほど、そうでしたか」
「農業やってるお客さんもいらっしゃるし、ちょうどよかったかもしれません」
 美容師は私が常連客の娘と気付いていないのか、真剣な表情で私の髪の毛の束をつまんで長さを確認していた。
家の本棚じゃないんだからと呆れつつも、帰省する度にフリーのイラストレーターという私の肩書を不安視していた母さんが、何だかんだ応援してくれていたのが嬉しかった。
 雑誌をパラパラとめくり、挿絵を見る。田植え機に乗る人のイラストや、積み重ねられた米のイラスト、野菜がたっぷり入ったスープのイラスト。細部まで覚えているほど何度も見たものだったが、かわいらしいですね、スープがおいしそうですね、と誉めてみる。
「ごはんの絵を見て思い出しましたけど、その常連さん、うちに来る度に料理のレシピを持ってきてくださるんです」
「レシピを?」
「ええ。毎日お昼の料理番組を見て、紹介された料理を作っては自分で点数を付けて、おいしかったのを教えてくださるんです」
 知らなかった。私の知っている母さんは料理をするのがあまり好きではなかったはずだ。料理番組を見る趣味があったなんて。
「美容師さんは料理、得意なんですか?」
「とんでもない。もともと私、料理って苦手で電子レンジで作れる簡単料理みたいのだけなんとかやってたんですけど、レシピをもらううちにけっこう凝った料理ができるようになったんですよ」
 美容師は照れ臭そうに笑った。
施術の間、美容師はいろいろな話をしてくれたが、その中に件の常連客は幾度も登場した。娘のイラストが載った雑誌を美容室に持参し、料理番組を欠かさずチェックし、最近は腰痛に悩んでいるのだという母さん。今回、転倒したのも、もしかしたら痛かった腰を庇って変な歩き方をしていたからかもしれない、と思った。
 聞けば聞くほど、この美容師は私よりも母さんのことをよく知っていると思った。母さんとこの美容師は客と美容師という関係を越えて、友達か親戚であるかのように感じられた。

「ところでお客さん、普段はどんなお仕事されてるんですか?」
 まずい。先ほど自分で描いた雑誌のイラストを誉めてしまった手前、答えにくかった。答えあぐねる私の耳元でシャキシャキとはさみの音がリズミカルに鳴る。私が答えないでいると美容師は続けた。
「パソコン仕事とかされてます?」
 見事に言い当てられ、動揺する。この美容師には私が常連客の娘でイラストレーターだということが分かっているのだろうか。
「すごい、どうして分かるんですか?」

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