「どうも。前もここ来たことあるんですけど、なかなか見つけらんなくて」
その言葉に佐藤は曖昧に微笑む。
「今、開店したてなので特別にサービスしてます」
「開店したて?ってことは系列店とかですかね?」
少女は首を傾げていたが、佐藤に案内され鏡の前の椅子に座った。
「今日はいかがなさいますか?」
「あ、わたし明日卒業式なんです~、高校の」
「まあ、おめでとうございます」
「それで、……好きな人が居て、告白するつもりなんです」
少女は少し照れたように意味もなく前髪に触れた。
「まあ」
「その人、ケーポップアイドルが好きみたいなんで、似た感じにしてバチッとキメたいんですけど!」
そう言って少女はポケットからスマートフォンを取り出すと写真を見せた。
「この子です!この大人っぽい子。こんな感じってできますか?」
「大丈夫ですよ」
お願いします、と頭を下げる姿は派手な見た目に反して素直そうな印象を受ける。
「まずはシャンプーしていきますね」
「あ、はい」
そのままシャンプー台に案内され、耳元を流れる水音を聞きながら少女がぽつぽつと語り出した。
「その人小学校から一緒なんですけど、ほんとに優しい人で……でもぜんぜん勇気出なくてずーっと言えなかったんです。だから、駄目元で伝えるだけ伝えるつもりなんですよ」
「素敵ですね。うまくいくといいですね」
「ありがとうございます~!お姉さんはなんかこういう告白がいいとかありますか?参考にしたいんですけど……」
佐藤は突然の質問に「私?」と苦笑いをすると、シャンプーをしながら答える。
「そうですねえ……やっぱり、ストレートなのが一番いいんじゃないですか?」
「やっぱりかー。そういう経験あるんですか?」
「旦那と付き合い始めたときに」
「結婚されてたんですか~?じゃあ尚更参考になりますね!」
そんな他愛もない話をするうちに時間は流れ、着々と髪が整えられていく。
「出来ました」
見違えるような姿に、少女は「わ!」と目を見開いて食い入るように鏡を見つめた。ゆるく波打つアイスグレーの髪はふわふわと柔らかそうで、前髪はシースルー。髪を触りながら角度を変えてはまた眺め、何度も感嘆の声を上げている。
「うわ、すごい。髪色めちゃめちゃキレー!髪型もそっくり。感動……」
そう言っていつまでも鏡に張り付いている。
「またお父さんに何その髪!とか文句言われるかもしんないけど……でも、絶対彼は褒めてくれると思います!」
少女ははにかむように笑った。
「頑張ってみます!ありがとうございました!」
少女は鞄を肩に掛けると扉を押して元気よく店を後にする。
「ありがとうございました~」
佐藤は遠ざかる背をいつまでも見守っていた。
客が去った店内にはカチコチという時計の音だけがやけに大きく響いている。店内を片付けているうちに再びベルが来客を告げた。佐藤は振り返り声を掛ける。