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『青いバラ』柴垣いろ葉

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 そういって威張るように腹をさすりがははと笑った同僚には高校3年生になる娘がいて、もうじき受験だというストレスや反抗期やらで、家でかなりきつく当たられるそうだ。
「洗濯物はお父さんと別にしてほしいだとか、加齢臭がくさいだとか、おまけにかみさんまでもがおれのことを避けはじめる始末だよ。もう飲んでねえとやってらんねえ。」
 そういうともっているグラスのピッチを速め始めた同僚をしり目に、男は唖然と自分の人生の不毛さを感じずにはいられなくなっていた。
 男は結婚願望がなかったわけではなかった。ただ、昔いとこのお姉さんたちに木登りを強制されるなどとからかわれた幼少期の経験からか、女性恐怖症のきらいがあり、21 歳のころ何とか 2 つ年下の彼女をつくるも、就活や卒論で忙しく、もたついている間に他の男に取られてしまって、それからというものもう女性とのそれらしいかかわりはそれっきりだったのであった。
 同僚はすっかり出来上がり、その酒臭い口でさんざん家族の話をした後で「ああやっといい気分になってきたぞ。さあもう一軒行こうぜもう一軒。」と言って、千鳥足で蒲田の商店街にさっと繰り出した。蒲田の夜の光に映し出される同僚の後ろ姿に、昔の面影を感じた男はしょうがない奴だと苦笑しながらも、自身もほろ酔いになっていたからか、町のどことなく懐かしさを感じさせるような陽気な雰囲気のおかげもあってか、なんだかこのまま帰るのはつまらないような気もしてきて、もう一軒くらいいいだろうと同僚に付き合うことにしたのだった。
 しかし、そのあと同僚はもう一軒もう一軒と二軒も男を連れまわし、最後に選んだのは居酒屋ではなくスナックだった。
 店に入るとカウンターに客が一人、その連れなのだろうか、もう一人男がカラオケを歌っている。
 同僚は入り口手前のカウンター席にどかっと腰掛けると、男はその隣におずおずと座りこ

 
 んだ。こんなところに来るのは何しろはじめてである。
 カウンターの奥では、派手目の服を着た 40 後半の女が楽し気にカラオケの歌を口ずさんでいる。すると、隣に座っていた男がこちらに気が付きカウンターの女に「ママお客さんだよ」と声をかけた。このママと呼ばれた女は、同僚と男を見ると「いらっしゃい!」と急に甲高い声をあげたかと思うと、「めぐみちゃん、めぐみちゃん」とカウンター裏に向かってしきりに叫ぶのであった。
 めぐみちゃんと呼ばれたその女は、黒く長い髪を耳の後ろで束ね、ゆらゆらとうごめくピアスをしており、服装はママの趣味なのか派手目なものの、化粧は薄い。すっとした切れ長の目が、人に涼し気な印象をあたえる顔立ちをしている。
「いらっしゃい。何にしますか。」
 女は、カウンター裏からでてくると男の目をまっすぐに見て注文を取ろうとするものだから、男はたまらず飲めもしないビールを二人分注文してしまった。
 同僚はすでにでろでろによっぱらっていて話にならない。
 カラオケでは、うんとキーを下げた中島みゆきの『時代』が歌われはじめた。このめぐみというこの女こそが、この男の恋の相手である。

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