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『フラッシュバック、タコ。』美野哲郎

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 キンキンと甲高い声を上げてはるかが抗議する。ほほをぷくーっと膨らませて、これが天然なんだからいやになってしまう。そういうのは男の前ででも見せてなさいって。
すっごく、可愛いんだから。
「だよね……あのさ」
 打ち明けてみようと思った。でもどこから? どこから今の不思議な瞬間について伝えればいいんだだろう。
 いっそ。最初からすべて、はるかに話してみようか。
 はるかになら、話してみても後悔はしない気がする。
 この日から、私はぽつぽつとはるかに過去を語って聞かせることになる。
 はるかは先をうながすでなく、熱心に聞き入るでもなく、私が語って聞かせやすい空気を作ってくれた。天然のお姫さまみたいだと思っていたけど、この一連の優しさばかりは、あの子の計算なんだろうなぁと思う。

 私はいわゆる捨て子というやつで、きっと過ごしやすい気候だったのだろう(そうと信じたいから)涼しげな6月のある日に、コウノトリから病院の前に置いていかれた赤ん坊だった。
 病院関係者はすぐさま近くの産婦人科に近々に生まれた子供で行方不明になっているものがいないか確認をとったのだが、一向に判明しなかった。
 それから乳児院に預けられ、一応健康にすくすくと育ってから、児童養護施設に預けられた。そう孤児院って本当は言っちゃダメだから。言っちゃうけど。
 乳児院ではあまり世話のかからない赤ん坊だったらしく、早々に施設に預けられたため、私の記憶は、この施設より先しかない。
 児童養護施設と一言で言っても大舎制、中舎制、小舎制、それからユニットケアやグループホームなんて呼ばれる形態に別れていて、私が過ごしたのは中規模の人数で共同生活を送る中舎制だった。
 幸いにして私は人間関係のやっかいごとやとばっちりをまぬがれて生き抜くことが出来た。耳に届くいくつかの他のグループのひどい噂と比べると、それだけは本当に幸福だったのかもしれない。
 しれないけれど、一方でなんというか、私と同じホームにいた子はみんな妙に達観して、諦観して、決して必要以上に他人と近づこうとしなかった気がする。アットホームな空気には程遠く、大人のフリした子供たちが、互いにすまし合っていた。それでいて帰って素顔をさらけ出せる家庭がある訳でもないのだ。
 とにかく児童養護施設を私は生き延びて、高校進学と同時に画家の臼井道代、というおばさんに引き取られた。
 当時もうおばあさんと呼んでもいい見た目をしていたけど、そう呼ぶと道代さん不機嫌になるから、便宜上の「おばさん」ね。なんのことはない、彼女にとって私は絵のモデルとして便利だったのだ。
 背は高く、鼻先は通っていて、いつも気を張っていたから姿勢だってしゃんとしてるし、自分でもモデルをやれる自信はあった。
 可愛いらしいメイクをした読者モデルとかじゃなくて、彫刻やデッサンで描かれるような、グラフィックとして均整の取れたモデル。目は狐のように細く吊り上がってるし、胸はぺっちゃんこだしね、無駄に煽情的ではないからね。ないからね! 
 私は生き延びるために勉強だけは誰よりも必死でやったから、この優秀さを見込んだお金持ちの家に転がり込めないかと企みは抱き続けていたのだけど、道代さんにとって私の頭脳はどうでもよかったらしい。
 ついでに、私という個性もどうでもよかったらしい。
 毎日、学校帰りに大きな自宅の地下にある、窓のないアトリエで裸になって道代さんのモデルをしていた。道代さんはとにかく私の目を見ないし、私から学校の話を聞こうともしないし、まず私に怒ったことがない。そもそも中身のある会話なんてしたことあったかしら。

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