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『ラヴ・カマタ』ヰ尺青十

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 ポケベルすらも未だ無くて、メアドを教え合うなんてのはSF小説にすら出てこなかった。
 駅からの帰り道をボクはしょげ歩く。トボトボっていう音が足元から聞こえてきそうだ。
 尻目におじいちゃんは、井沼さんと知り合えたのが嬉しかったらしく、足取り軽やかにすたこら進んでる。
 ボクはそれが憎らしくて、犬の糞でも踏んづければいいのにと思った。

*

 葬式とは靴の海だ。
 人が死ぬと玄関の三和土(たたき)が履物で埋まる。
 祖父が逝った時は三和土だけでは足りなくて、引き戸の外にもはみ出していた。
〈息切れがする〉
 遊園地で胸を押さえていた日から三年半後の12月12日のことだ。ゾロ目だから覚えやすくて助かる。
 発見したのは隣りのおばさんだった。
 回覧板を持ってきたところ、炬燵でゴロンとなっていて、声をかけても半口開けたまま反応が無い。すぐにそれとわかった。
 医師の診断は心不全。
 祖父の死に臨んで、私はわあわあと泣くことも無かった。
 思えばこの三年半の間に、祖父よりも同級生たちと遊ぶ時間の方が長く且つ楽しくなって行き、遊園地からもデパ食からも足が遠ざかっていたのだ。
 ペットがだんだんと飽きられて、終には見向きもされなくなる。
 祖父にすればそんなふうに使い捨てられたような寂しさがあったかもしれない。
 ただ、釣り餌を取るときだけは、晩年までずっと祖父といっしょした。掘ってメメズを探すのだ。
〈ミミズ〉なんていうのは人工標準語であって、正統東京弁ではない。同じく、足にできると痛い〈魚の目〉も〈いおのめ〉が正統である。
 で、餌にはシマメメズが最適だ。ドバメメズは饂飩みたく図体が太いけど、針に付けると直ぐに死ぬ。動かない餌では魚の気を引きにくいのだ。
 祖父はシマメメズの居そうな場所を見つけるのが上手かった。
 掘り終わると、初めのうちは二人連れ立って釣り場に向ったけれど、そのうちにボクは、祖父をメメズ掘り専用係に降格してしまった。
「今日はシンイチ君たちと行くから、おじいちゃんは来なくていいよ」
 いっしょに行くのが当然と思っていたところへ、孫からいきなり同行無用を宣告される。
 祖父は力の無い笑みを作って立ち尽くしていた。
 私はそれを尻目に、釣り場へとすたこら去る。だって、シンイチ君たちと釣ってるほうが楽しいんだもんね。
 おじいちゃん、ごめん。
〈他人の人格を単なる手段としてのみ扱ってはならない〉
 後年イマヌエル・カントから教わりました。ボクはいけないことをしました。
 餌代を浮かせるために、メメズを探す苦労を省くために、ボクはおじいちゃんを利用しました。ごめんなさい。
 それに、シンイチ君たちの分までも取らせました。メメズで歓心を買ってました。おじいちゃんが死ぬ年の秋までずうーっとです。ごめんさない。
 じつを言うと、おじいちゃん。
 もっと謝らなきゃいけないことがあるんだよ。
 初めの頃、釣り場へおじいちゃんといっしょに行ってたのは、メメズに触るのが気持ち悪かったからです。
 釣り針につけると黄色い汁を出してのたうち回るのが嫌だったからです。

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