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『ラヴ・カマタ』ヰ尺青十

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 デパートとか、屋上に出るだけでも嫌そうで、さらに高みに上る観覧車だと二重苦になる。
 他方、私は高みが楽しく、籠の中で席から立ち上がって窓の外を見遣るのが好きであった。するたび籠が揺れるから、祖父は顔色を失って手摺にしがみつく。脂汗が浮かんでいた。
 さぞかし動悸も激しかったであろう、血圧も上がったことであろう。後年、祖父が死んだのは・・・
 だが当時の私は、祖父が窮する様をむしろ愉快に眺めていた。
 あたりまえだけど、大好きなおじいちゃんが死んだり大怪我したりするのはぜったいイヤだ。きっとボク、わあわあ泣いちゃうよ。
 けど、ちょっとだけ困ってるのを見るのは嫌いじゃないな。
 こないだ道端で犬の糞を踏んづけて「うあっ」とか言ってたけど、それを見てたら、ボク、思わず「ふふ」ってなっちゃった。
 蜂に刺されてアンモニア臭い〈キンカン〉塗りながら「くぅー」って呻いてるのにも「ふふ」ってね。
 概して子供に特有か否かは心得ぬが、私にはこういう嗜癖があって、成人して後も残っている。好きな女性に「ふふ」を禁じえない。

 遊園地に戻ろう。
 少し汗ばむ初夏の日であった。
 小二の私は祖父に連れられて、いつもの観覧車乗り場に行く。
 この日の祖父の姿は今でも記憶に色褪せない。
 開襟シャツにゆったりとした淡い肌色の麻の背広を着て、頭には同系色の帽子をのせていた。
 痩身であったが、この身形(みなり)だと一回り大きく見えたものだ。
「なんだか息が切れる」
 右手を胸に当てている。
「慧や、おまえ一人で乗れないかな」
 乗れません。
 注意書きに書いてある。〈お子様〉は大人と一緒でなければならない。
 係員に頼んでみたが、規則は曲げられなかった。
 あーあ、せっかく久しぶりに来たのに。
 私は不満を顕わにする。
 と、
「あのう、すいませんけど」
 順番待ちしていた人から助け舟。
「よかったら、いっしょに乗りませんか」
 ワイシャツを腕まくりした男の人で、ボクと同い年くらいの女の子を伴ってる。三人で乗ろうとの申し出だ。
 祖父だけ残して乗ると、ボクはすぐに女の子と仲良しになった。
 由美ちゃんていう。
 手足がすらり長くて、ボクより背が高いくらい。おかっぱ(ボブカット)に赤いワンピースが映える。まつ毛が長いな。くるりと上向いて瞳を大きく見せている。つまりは美人なのだ。
 降りると祖父の動悸は治まっていて、男の人とお礼やら自己紹介やらを交わす。井沼さんていって、ズボンにジーパン(ジーンズ)を穿いてた。
 若々しくてハンサムなお父さんだ。由美ちゃんはきっと、お父さんに似たんだな。
 だけど二人は名字が違うんだ。由美ちゃんは窯田由美だって。
 離婚したんで、由美ちゃんはお母さんと千葉に暮らしてる。裁判所の決定で、井沼さんとは月に一度しか会えないんだって。
 今日がその面会日だった。

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