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『ラヴ・カマタ』ヰ尺青十

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 主人公がピンチになると鳴き声たててイルカが助けに来る。
『わんぱくフリッパー』っていうドラマがあって、ま、『黄金バット』のイルカ版さ。
 おじいちゃんは困った。
 おじいちゃんは腕組みをした。
「いや、流石にイルカはちょっと」
「でも、おじいちゃん、何でもって言ったよ」約束したよ、ブシとか言ったよ、ニゴンとかも。
「・・・」
 真剣な顔して黙り込んでる。
「そうだな、そのとおり、何でもと言ったら何でもだよな」
 お前が正しい、わしが悪かった、謝る。
 ペコリ
 幼児のボクに禿げ頭を下げた。
 自分の非をはっきり認めたんだよ。
 ふつうの大人たちだったら〈理屈を言うな〉とかって逆切れするんだけど、おじいちゃんは違った。
 約束は守るべし、理屈は言うべし通すべし!
 私は祖父のこういうところを誇りに思うのだ。
 それはいいけど、祖父は理屈に弱かった。
「言いがかりつけるのはやめとくれ」
 駄菓子屋のオババに睨みつけられる。
「一等が1本とか2本とか、どこに書いてあるんだい」
 1メートルもある戦艦大和のプラモデルが一等なんだけど、くじを全部引いても当たりが出てこない、子供騙しだよ。
 聞いておじいちゃんは乗り込んだ。けど見事に返り討ち。
「宝くじじゃないんだ、子供が勝手に思い込んでるだけだろうに」
 しゅるしゅるしゅる、おじいちゃん無言で退散した。

*

 私は一人っ子で、所謂おじいちゃん子という奴であった。
 祖父のことが好きだった、とも言えるが、自分のわがままを何でも聞いてくれる家来のように扱っていたとも思う。とかく私は、祖父の忠誠心を試しては安心する、幼い暴君だった。
 ものごころがつく前に祖母は逝き、両親は共に勤めに出ていたので、最も長く時間を共にするのは祖父である。
 既に隠居の身で、いつも家に居た。
 木造二階の小さな家屋、今はマンションが建ってる。 
 家は大田区の南端に在って、川を挟んで神奈川県に隣接していた。
 高層ビルが立ち並ぶ大都会などではない。
 川に行けばザリガニや小魚なんかいくらでも捕れたし、夏ともなれば柳の木に潜んでるクワガタだって見つけられた。
 しかし田舎というわけでもない。
 人々が生活し且つ行き交う地域、活気のある町場といったような所だった。
 昭和40年代前半、子供のための娯楽施設は限られていたけれど、遊園地はあった。
 私は観覧車が一番のお気に入りで、多摩川園とか、あと、デパートの屋上にも小さいのがある。段々と地面を離れ、連れて景色が開けてくる様に心が躍ったものだ。
 連れてくのは専ら祖父の係だ。
 孫が小走りに乗り込むと、祖父は苦笑しながら、否、苦笑すら消えた面持ちで私に続く。
 籠(祖父はゴンドラと言わなかった)が動き出してから元に戻るまで決して外を眺めることは無くて、ただただ床に視線を落として辛抱するだけだから、祖父にとっては〈不観覧車〉と言うべき物である。
 つまりは高所恐怖症なのだ。

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