おじいちゃんは瓶ビール空けるとエンジンがかかっちゃって、今度はお酒を飲みだした。
小皿におからを盛ってきてね。こういう器のことを、家では〈おてしょ〉って呼んでたっけ。
家計の節約おかずみたいだけど、おじいちゃんとボクには好物だった。家のは関西風の味付けで、調理してもおからは白いまま。これがおいしいんだ。
ボクなんか、おからの正体を知らなくて、おからは初めからおからという物なんだと思ってた。
大豆を絞ったカスつまり〈殻〉が〈お殻〉で、〈お酒〉とか〈お米〉というのとおんなじだって気がつかなかったんだ。
そう言や、おじいちゃんのことも、おからと同じに思ってた。元々からおじいちゃんという生き物なんだって。
だから、おじいちゃんにも若い頃があったとか、ましてや戦争に行ってたなんて想像したこともない。本人も話をしなかったしね。
ただ、晩年にいっぺんだけあった。
ビール飲んでるときだ。
柴漬けでも目についたのかな、ふと手を止めて、
「高粱飯(こうりゃんめし)は赤いんだ」
「?」
「真っ赤なんだよ」
「?」
ぼそり漏らす。そしてゴロン。
「満州でな」
鼻の脇にしわが寄って
「銃剣にべっとり・・・」
ここまで言って眠りに落ちた。
小学生の私は、高粱も満州も知らなかった。
ましてや、銃剣とは人を刺殺する装備だなんて、わかる由も無かった。
閑話休題。
お酒を飲みだすと、おじいちゃんは気が大きくなった。
「慧や、何か欲しい物ないか?」
ボクの話がよっぽど面白かったみたい。褒美を取らす、明日は年金が出る日だ、望みを考えておけってね。
グビリ
「何でも買ってやるぞ、何でもな」
酔うと繰り返しが多くなる。
グビグビ
「よーし、約束じゃ、武士に二言は無いぞ」
ゴロンして、くうくう眠っちゃった。
翌日、
「フリッパー買って」
ウケケケケ。