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『いただき』中川マルカ

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「西川さんたこ焼き好きですか」
「そうねえ」
 きらいな人居ないんじゃないの、と、ずっしりした風呂敷包みを寄越してくれた。

「おおおおおはようございます」。井上さんも今日は早番だった。大大おはようございます。井上さんのもみあげはいつも真っすぐ青く整っていた。遠くに臨む、凪いだ水平線のようで。
「それ。自分でやってるんですか」
 もみあげを指すと、井上さんは肩をすくめてのけぞった。そして首を横に振り、「いいいいいや、とととととうさんがとうさんが」と言った。倒産? と思ったが、しばらくしてそれが父親を指す言葉だと理解した。井上さんはわりとすぐに驚く。驚かせてしまって申し訳ないなと思いながら「あ、実家、床屋なんですか」と聞くと、目を見開いて力強く二度頷いた。美容院ではなくて。ブンブン。ブンブン。井上さんの首振りは早い。タケルは色々を理解した顔をして、「きれいですよね」と言った。首を振りながら「そそそそそんなことないよ」と、耳から首元まで一気に赤くしてしまったのを見、指を下ろし口をつぐんだ。井上さんは、もっと話したそうな目で、壁にかかるカレンダーを見ていた。親父さんの跡を継がないのかと聞こうと思ったが、藪蛇な気がしてそれも止めた。どもりで動きの速すぎる理髪店員にあたまをあずけるには勇気がいるだろう。特に続ける言葉もなく、じゃあと会釈して更衣室へ入る。窓のない部屋は息苦しい。

 地階に比べ、ここは清らかで心地よい。
 海底から屋上へ。
 海のにおいも土のにおいもしない天空の墓。ただいま、標高40メートル。
 早番の日は喫煙所のテーブルを拭いて、両替機や遊具を拭く。遊具にかけたカバーを外し、簡単に動作確認を行う。パンダの乗り物は一番人気だ。大人より大きいすすけたパンダと犬と、猿と豚の合いの子のようなオレンジ色のそれを所定の位置に並べる。大人が自動販売機の周りをきれいにする。硬貨が落ちていることもある。硬貨はポケットに、メダルはメダル回収箱に入れる。開店に合わせて屋上も準備を整える。開店早々屋上にまで登って来るような客は滅多に居ない。行列の出来ていた観覧車は今日も侘しい。ヒーローもいない。悪役もいない。どうやら地球の平和は保たれているようだ。エレベーターホールの鍵を開け、のぼりを立て、椅子を並べる。有線放送のスイッチを入れる。スピーカーが、びりと震えて音を吐き出す。音よし。オルゴールに変換された流行り歌が何を盛り上げることなしに流れる。音よし。じゃねーし。ジャグジャグに流れている楽曲を無視して、知っている曲を口ずさむ。観覧車は動かせるのか尋ねてみようかしらと、ふと思う。
「あの、観覧車って、もう動かせないんですかね」
「出来ないことは無いと思うよ」
 社員の鈴木さんが眠い目で答える。
「っていうか、今度、記念イベントあるじゃん。秋に。ほら、ヒーローショーもやるしさ、どうにかしないとなー、って思ってたんだわ。っていうか、復活するんだよね。っていうか、復活させなきゃなんだよねー。来週、整備入るでしょ? その時に調整してもらうんだわ。別に壊れてるわけじゃないしさー。ちょっといじったら動くでしょー。とりあえず、操作練習やるからさー。山野君も手伝ってよー。あれまじで超簡単だし」
 思いがけない言葉にタケルは武者震いをした。果たして自分に出来るのだろうか。墓守から操作員に。観覧車のぐるぐる回る様を思うと、かるい眩暈を憶え、てっぺんで迎えるその高さがとても気になり始めた。40メートル、プラス10メートル。空がまた近づく。
「ウルトラマン? 仮面ライダー?」

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