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『見送る人』千田良輔

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「いやあね、別に今の職に不満があるわけじゃないの」
「飽きた?」
「うーん、飽きたとも違うかなあ」
「ふうん。そういう気分てさ、適当にやり過ごすしかないんじゃない?」
「そうかなあ」
「深く考えず、お酒飲んでね」
「うんー。適当にやり過ごすねえ」
 電話の後、楓は鞄から今日貰った寄せ書きを取り出した。真ん中に『To be or not to be』と書いてある。To be or not to be、やるかやらぬか、生きるべきか死ぬべきか。生徒たちがこの台詞を選んだのは楓が英語教師だからってだけなのだろうと想像した。高校生の思考が可愛い。
 過去に貰った寄せ書きが入っている缶の箱を本棚から取り出し、そこに重ねて入れた。蓋をして、缶ビールをぐいっと飲む。英子に「今度ニューヨークの話聞かせてね」と言ったら嫌味に聞こえるかと思い言えなかった。楓は考えるのをやめて眠ることにした。
「眠るべきか眠らないべきか」
 楓はふっと笑ってベッドに入った。

2
 数日後。順一は、ワンルームの室内で、慌ててシャツにアイロンをかけていた。
 シャツを着て、ネクタイを締め、カバンを持って家を出る。ドアを閉めてから思い出して部屋に戻る。消し忘れていたエアコンの電源を切る。

 会社に出勤しても、まだ自分のデスクはなく、毎日研修を受けるだけだ。
 昼食は会社の近くの蕎麦屋。安く済ますにはここしかない。券売機の前で悩んでいると、どんどんサラリーマンの客たちが入ってくる。ぶっきらぼうな店員に食券を渡し、席に着く。蕎麦が来たら急いで食べる。隣の席の男と肘がぶつかる。
 午後、研修が終わると、上司に呼び出され、転勤先が名古屋に決まった。急いで家を探さなければならない。

 蒲田に着くと20時をまわっていた。高校時代の同級生と飲み会だ。
 高校時代の友人と会うと、その頃に戻ったような気分になる。思い出話しかない。しかしそれでも楽しかった。
 22時に店を出た。終電まではまだ時間がある。順一はもう一軒行こうと誘ったが、友人たちから反対された。明日も仕事があるだの、もうオールがきついだのと言って結局解散になってしまった。大学生の頃は、みんなダラダラと二軒目、三軒目と飲み歩き、最後はカラオケで朝を迎えるという流れだったのに。
 蒲田駅まで歩き解散した。順一は改札前で少し考え、電車に乗るのをやめた。一人でもう一軒行くつもりもなかったが、まだ帰路につきたくない気分だった。高校時代の懐かしい場所を巡ったりしたかったが、この時間だとどこも閉まっているだろう。
 と、東急プラザの屋上でビアガーデンが開催されていることに気づいた。ラストオーダー22時と看板に書かれている。急げば一杯飲めるはず。それを飲んで帰ろうと屋上に向かった。
 屋上に出ると、客は帰り始めており、まばらだった。店員たちも閉店作業をしており、やっぱり飲まずに帰宅しようかと思った。
 何気なくテーブル席に目をやると、見覚えのある女性が一人座っている。
「先生!」と順一は声をかけた。

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