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『見送る人』千田良輔

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 楓は誰もいない教室で、窓の外の満開の桜の木を眺めていた。
 黒板には「卒業おめでとう」の文字と共に装飾がなされている。
 高校の英語教師になってから7年が経つ。今年は三年生の担任を持った。
 教卓の前に立って部屋を見渡す。何かがごっそり失われた、血の通ってない部屋になった気がした。
 外に出ると、桜の木の下で卒業生たちが互いに写真を撮りあっている。楓も頼まれ何枚かの写真に入った。生徒たちからクラス全員の寄せ書きが入った色紙を貰った。
 そのまま賑やかに校門から出て行く卒業生たちを楓は見送った。

 夜、楓はシャワーを浴びながら考えた。
 ここ数年、卒業式になると嬉しさと同時にうまく言葉にできない感情になった。
 先生たちとの飲み会で、卒業式の後だから寂しいだけだと言われた。酔って熱の入った先輩教師が、生徒たちの成長に関われることはとても貴重で、かけがえのない仕事だ言っていた。
 たしかにそうだ。でも……。

 楓はシャワーを出ると冷蔵庫から缶ビールを取り、電話をかけた。
「もしもし」とすぐに友人の英子が出た。
「今、大丈夫?」
「ちょうど休憩」
 と、いつものやり取り。だいたいこの時間は英子が仕事で煮詰まって休憩している時間だ。
 英子は大学時代の英語学科の同級生。今は簡単な英会話の教師をしつつ本業は翻訳家である。楓は何かあると英子に電話をかけていた。
「でもいいよね、先生は。達成感あるでしょ?」
「まあ終わったー!って感じはあるよ」
「でも英子だって一冊訳し終わったら達成感あるでしょ?」
「私は同時並行で何冊もやってるから。あんまり感慨ないんだよね」
「売れっ子ですね」
「人手不足なだけ。今度出張行かなきゃだし」
「どこ行くの?」
「ニューヨークに二週間」
「へえ、いいなあー。私もどっか行きたい」
「何?溜まってんの?」
 そんなつもりで言ったわけではなかった。
「いやー、なんというか……」
「塾講師の話はどうなった?前にいいかもって言ってたじゃん」
「うん、給料いいし、やり甲斐ありそうなんだけど」
 少し前に転職を考えていたのだ。

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