「亮二がお前のところに金を払ってないから、友達に中学出たらバイトで返すから、金貸せって頼み込んだんだと。そんな先なんて、本気かどうかもわからねえから、カツアゲと思われたってことらしい。まあ、相手から見れば、返すアテのない借金なんて、カツアゲみたいなもんだしな」
「お前、なんで。いいって言ったろ。飯代なんて、お前が気にすることじゃないんだ」
震える賢吾の声に答えるように、寛人がうつむいたまま、言葉を落とした。
「……聞いたから。ばあちゃんが昔、賢吾さんの父さんに酷いこと言ったって。なのに俺も世話をかけて。それならせめて、ちゃんとお金払わなきゃって」
賢吾の顔が凍りついた。
「……誰から聞いた」
「……」
寛人はまた、黙ってしまった。
「お前、亮二と何かあったのか? 俺から見ても、亮二への態度は、ちょっと甘やかし過ぎだ」
「別に」
「否定したいのは勝手だがな。甘やかすだけじゃ亮二をダメにするだけだろ」
「……あいつのためじゃない」
「え?」
「……俺のためだ」
「どういうことだよ」
賢吾はそれ以上語らなかった。
「連れて帰っていいか」
「……連絡しろよ」
諦めたような聡を残して、賢吾は寛人を連れて、教室を出ていった。
* * *
「……なんで、こんなところ?」
寛人は空を見上げた。賢吾が連れてきたのは、駅ビルの屋上広場だった。遊具や小さな観覧車並び、親子連れがそれぞれ楽しんでいた。
「あれ、乗ったことあるか」
賢吾は観覧車を指差した。
「……ない」
「そうか。俺もない」
「だから?」
「……乗るか」
賢吾の言葉には聞いているようで、有無を言わせない強さがあった。
寛人の返事を待たずに、賢吾は観覧車に向かう。背中を追うように、寛人が足早についていく。
係員がゲートを開けると、小さなゴンドラに寛人を乗せてから、賢吾が乗り込んだ。ガチャンとロックをかける音が響く。
ゆっくりと上がっていくゴンドラは、小さいはずなのに、まるで大きな遊園地の観覧車のように、街を一望させた。
夕暮れが近くなっていた。
傾いた陽が、空をオレンジ色に染め始めている。
「……亮二と乗るはずだったんだ」
「父さんと?」
賢吾は目を閉じた。
思い出すのは、遠い記憶だ。歯に挟まった魚の小骨のように、いつまでも嫌な感触が残っている。
――「じゃあ、今度、駅の屋上なら連れてってやるよ」
――「えー!あそこ、ガキしかいないじゃん」
――「お前だって、ガキだろ。なあ、亮二は来るよなあ?」
――「……俺もいいの?」
――「ほら、賢吾と違って亮二は素直だよなあ」
父親の声が、笑い声と共に賢吾の耳に残る。
ガチャンとロックが開いた。