乱雑な部屋に無造作に亮二のカバンが置かれていた。中から財布がのぞいている。
寛人は思わず、その財布を手にとった。中身は千円札数枚と、レシートに紛れた小銭。
「おい、何やってるんだよ!」
目を覚ました亮二が寛人の腕を掴んだ。
「……飯代」
「漁火で食えばいいだろ。金だって置いてきた」
「足りる?」
「あいつが足りねえって言ってるのか?」
寛人が首を振ると、じゃあいいだろと、亮二はまた横になった。
「あれで、足りるわけねえじゃん」
苦々しく、寛人は呟くが、亮二が起きることはなかった。
* * *
古い自転車のハンドルに買い物袋をふたつ下げて、賢吾がふらつきながら、漁火の前に停車する。店に入ると、手際よく仕込みの支度を始めるが、スマホが震えて、賢吾はその手を止めた。
画面には羽海野聡と表示が出ていた。
「よう。どうした」
聡の声が上ずっていた。
「悪い。亮二に連絡つかなくて」
「なんだよ」
「……寛人がカツアゲした」
「……は?」
にわかには信じられなかった。賢吾の手が小さく震える。
「なんで? あいつが理由もなくそんなことするか?」
「俺だってそう思いたいけどな。相手がいるんだ」
聞き終わる前に、賢吾は電話を切って、店を飛び出した。走りかけて、慌てて自転車にまたがる。
走り続けて、小学校に着くと、自転車を止めるのもそこそこに、校舎へ走り、階段を駆け上がる。
「寛人!」
教室に駆け込むと、うなだれて小さくなっている寛人が座っていた。
「お前、本当にやったのか」
寛人はうつむいて黙ったまま動かない。
「はっきりしろ!」
寛人の肩を掴んで揺さぶる賢吾を、聡が慌てて止める。
「落ち着けって!」
「落ち着いてるよ、俺は!」
賢吾は聡の手を振り払うと、冷静を装い、肩で息をする。
「……お前だよ」
聡が、言いにくそうにに口にする。
「は?」