「毎日、毎日、店で同じような飯作って、酒出して。無理。俺には無理だわ。すげえよ。それでいて、寛人の面倒まで見てさ」
「それ飲んだら帰れ。酔っぱらい」
「俺は毎日何やってんだろうなあ。寛人のことも見てるはずなんだけどな。あいつ、掴みどころがなくて、どうしていいかわからん」
「俺だって、あいつのことがわかるわけじゃない」
「なつかれてんじゃねえか」
「あれが?」
「まあ、お前より春菜さんか」
「それなら嬉しいけどね」
春菜が水のグラスを聡の前に置く。
「ねえ、寛人くん、大丈夫なの?」
「しっかりした奴だけどなあ、時々、洗濯していない服着てたりな。気にはなってる。かといって亮二があの状態だから、単純に家事に手が回ってないだけかもしれないしな」
距離が近いと、判断は鈍る。それがわかっていても、聡もどうしていいかわからないようだった。
「今度、様子見に行ってみるよ。担任のお前よりは俺の方がいいだろ」
「悪いな。……それにしても、面倒な時代になったよ。人の子に手を貸すのに、ハードルが高くなり過ぎた。個人の事情、プライベートの確保。子供が出入りできる場所にも限りがあれし、うっかり手を差し出したらおせっかいだの、踏み込み過ぎだの。……この店みたいな場所が、本当は必要なんだろうな」
「うちはただの飲み屋だよ」
賢吾は料理をしながら、聡と目を合わせずにぽつりと答えた。
* * *
家に帰るのは億劫だった。帰ろうが帰るまいが、誰もいない。夜には亮二が帰って来るが、それまではアパートは寛人にとってただの生活する箱だった。
漁火にあまり迷惑は掛けないほうがいいことは、大人たちの空気からは感じる。父親のあの態度を見れば、寛人に直接かける言葉がどんなに優しくても、あまり行かない方がいいのだろう。
「あ」
公園を通り抜けようとすると、ベンチにヒコ爺が座っていた。まだ昼下がりなのに、カップ酒を飲んでいる。
「おう、お前、亮二んとこのガキじゃねえか」
漁火で会う時と同じ傍若無人さに、寛人は面倒な人につかまったと思いながら、促されるままに横に座る。
「昼間から飲んで、楽しいですか」
「楽しいねえ。で、お前は何しょぼくれた顔してるんだよ」
「……別に」
適当に答える寛人の頭をヒコ爺は叩く。
「何するんですか」
「お前、適当にごまかして、言いたいことも言わないで悟った顔してんじゃねえよ。まだガキのくせに」
「年齢、関係ないでしょ」