「お前、亮二にいいように使われてるだけじゃないのか」
「そうだとしても、寛人をほっとくわけにはいかないだろ」
「あのなあ。寛人の親は、亮二なんだ。お前じゃない」
「俺は別に、親になるなんて思ってないよ」
「もう親父さんがあいつの面倒みてた時代じゃねえ」
聡は賢吾を見据えた。
「……別に、親父を意識してるわけじゃない」
「どうだかね」
重い空気を払うかのように、春菜が両手を大げさに振る。
「はい!おしまーい!いいじゃない。困った子がいればごはん出すくらい、大したことじゃないんだから。それにねえ。誰だって弱ってる時はあるでしょ。誰かの手があれば、いつか立ち直るわよ。亮二くんは今、そういう時ってだなのよ、きっと」
そう言って、春菜は寛人が座っていた隅の席を見た。賢吾と聡も言い争いをやめ、その席に視線を投げた。
* * *
アパートの鍵を回すと、亮二は鈍い動きで部屋の明かりをつける。明るくなった部屋には、ゴミや空き缶が散乱し、亮二は足で座るスペースを作る。そのまま冷蔵庫からチューハイを取り出すと、ちゃぶ台の前に座る。
寛人は無言で、ゴミ袋に空き缶やゴミを拾って入れる。
古びたチェストの上に、位牌と写真が無造作に飾られていた。
「寛人」
「……何?」
「お前、賢吾のこと、どう思ってる?」
「……別に。風呂、洗ってくる」
寛人は答えずに、その場を離れた。
変なことを聞く時は、たいてい何か変なことを考えている時だ。この街に越してきた時も、大人たちの世界で何かが決まり、流されるようにここで暮らすことになっただけだ。
そんな偶然の結果に出会った人間に、何を想えというのだろうか。
「飯は、旨いけど」
賢吾と春菜が作る食事を思い返して、寛人は小さく呟いた。
* * *
漁火では聡が2本めを空けていた。賢吾が新しくつけた熱燗を出す。