光は以前と同じように、円形でぼんやりと浮かんでいた。実体があるようでないような、相変わらず判断のつかないような中途半端な明るさだった。数は以前よりも少ない気がする。それでも30個以上はあるように思えた。
「あれがおじいちゃんじゃないかな」とあかりが一つの光を指差した。それは、その光の中では、一番明るさの強い光だった。大きさもそれなりで、浮かび方もしっかりしているように感じる。
「どういうこと?この光、あかりにも見えるの?おじいちゃんってどういうこと?」
「これはドロップスって言うんだよ。この街をよくしてくれる光。セイレイ?そんな感じだと思う。」
「あかりは誰にそのことを教わったの?なんで、そんなこと知っているの?」
「お母さん。お母さんに教えてもらったんだよ。」
僕はおもわず息をのんだ。と同時に心臓が大きく音を立てた。
妻はあかりが3歳の時に病気で亡くなっている。妻はあかりを産んですぐに病気が発覚したのだ。白血球の病気で何度も倒れ、入退院を繰り返した。そしてそのまま天に旅立った。あかりが妻と一緒に生活していた時間はほんの僅かしかなかったのだ。ましてあかりは幼かった。妻の記憶をほとんど持っていないはずだ。だから、妻に何かを教えてもらえるわけがない。いつ教えてもらったという言うんだ。たとえ教えてもらっていても憶えているはずがない。
僕がしばらくしゃべれないでいるとあかりがこう言った。
「今まで黙ってて、ごめんなさい。わたし、ドロップスのお母さんに会ったの。家の近くの川で。わたしが帰りが遅くて、お父さんが探しにきてくれた日があったでしょ。塾が遅くなったってその時に言ったけど、嘘なの。その時にこの光をみたの。そして、その光の中にお母さんがいることがわかって、お母さんからその光がドロップスという名前だと教えてもらったの。それから何度もお母さんにあった。」
「何度も?」
「もう最近は会えていない。でも、いろいろとお話しをして、いろんなことを教えてもらったの。」
「どういうこと?」
「ドロップスは街をよくしてくれる光。セイレイ?ってやつだって、お母さん言ってた。死んでいった人に街への思いがあると、その光を残していくんだって。街に誰かを守ってほしいと思う人は、その光を残すんだって。お母さんは、わたしと話をするために、ドロップスを残していってくれたの。だから、わたしはお母さんとお話しすることができた。お母さんは色々と教えてくれた。お母さんのこと、お父さんのこと。それに私たちが住んでいる街のこと。」
僕は、しばらくあかりをみつめていた。妻があかりのためにドロップスを残していった。そして、あかりはそのドロップスと会話した。そんなことすんなりと理解できるわけはなかった。でも、目の前に光はあるのだ。実際に僕の目にその光は見えているのだ。
「お母さんが言ってた。受け取るものがある人にだけドロップスは見えるんだって。わたしはお母さんから受け取るものがあった。だから、ドロップスが見えたみたい。お父さんも今、見えるんでしょ。それであれば、おじいちゃんが何か渡そうとしているんだよ。だから、お父さんにもドロップスが見えるんだと思う。」
「親父が、僕に?」