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『drops』友松哲也

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「話してみて。あれがおじいちゃんの光だと思う。話してみればわかると思う。」
 僕はあかりに促されるまま、その光の前に立った。
「親父?」僕がそういうと光はぼんやりと輝いた気がした。
「親父。今までありがとう。母さんは今、家で寝ているよ。僕はいろんな意味でダメな息子だったかもしれないけど、それでもここまでやってこれたのは二人のおかげだ。ろくな親孝行もしなかったけど、母さんは僕がしっかり面倒をみるよ。」
 光はぼんやりと輝いたまま、特に動きもしなかった。声なんて何も聞こえない。何の返事もなかった。でも、しばらくすると僕の心に変化があった。僕の心の中に流れ込んでくるような感情が感じられたのだ。僕を認め、慰め、許してくれるような、そんな感情が僕の中に流れてきた気がした。お前はがんばった。いろいろあったが、ちゃんと乗り越えて、立派な父をしているよ。これからもあかりちゃんを大事にな。僕の胸の中でそんな声が聞こえた気がした。そして、僕はいつの間にか涙を流していた。涙が止まらなかった。

 帰り際にあかりが言った。
「お父さんはね。真面目すぎるって。お母さんが言ってた。もっと楽にしてって。新しい恋人を作ってもよいんだよって。」
「そんなことまでお母さんは言ったのか」
「うん。お母さん、お父さんのことが大好きだったんだよ。だから、お父さんには迷惑かけないようにしたいって。」
「お父さんもさ、お母さんのこと大好きだったんだよ。だから、もういいんだよ。それにあかりもいるし。今、一番大切なのはあかりだから。あかりと一緒にいられれば何もいらないよ」
「私もお母さん大好き。もちろんお父さんも。あの家も街も好きだよ。だから、ずっとあそこにいたいと思う。最近お母さんとは会えなくなってしまって寂しかったけど、でも、お父さんとあの家で暮らせれば大丈夫。」
 どうしようもない僕を救ってくれるために、彼女はあかりの前にドロップスとして現れたんだ。そして、僕は彼女の想いを受け継いだあかりに救われた。なんどもなんども。そして、父に別れの挨拶もできた。彼女には敵わないな。ありがとう。僕は何度も心の中でつぶやいた。

 わたしが「ドロップス」をもう一度見たのは、それから30年経った後だった。わたしはお父さんとお別れの挨拶をするために、「ドロップス」に会いにいった。いつも通りの暗い日に川へ行ったら、ひときわ大きな光があって、一目でお父さんだとわかった。わたしは大丈夫だからお母さんのところへいってと伝えた。そして、ありがとうって言った。お父さんは泣いているようにみえた。相変わらずの泣き虫なお父さんだった。お父さんは心配そうに何度も何度も大丈夫かと言ったけど、わたしは笑ってお父さんを送り出した。
「おかあさん、観覧車に乗りたい」息子がそう言って私の腕を引っ張る。
 わたしは、小さな頃にお父さんと何度もきた、このデパートの屋上に今日もきて、息子と一緒に観覧車に乗っている。
「ねえ、ドロップスって知っている?」
「なにそれ。飴?」息子がむじゃきに答える。
 わたしもいつかドロップスになれるかなと思う。そして、この子にお父さんの、お母さんの、そしておじいちゃんの想いを託せたらと思う。
「暗い日にね、川へ行くんだよ。そしたら見れるよ、ドロップス」
「なにそれ、怖いね」息子が無邪気に笑う。そして、わたしは息子をギュっと抱きしめる。

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