「でも」
「ほら、もう行かないと、電車が来てしまうよ」
「ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうね」
繭子が下げた頭を戻すと、もうタクシーは走り去っていた。
ボーン、と大きな柱時計が鳴った。と思ったら、携帯が鳴っていた。メール着信を告げる振動音がそう聞こえたのだ。
「ごめんね。また帰っておいで」
進の簡潔な文面に、なんだか繭子は力が抜けた。そして、すぐ進に電話をかけた。大きな柱時計のような振動音を聞きながら、繭子は今通ってきた道と、そこで見た景色を進と分かち合いたいと思った。そして、昨日の言葉を謝って、本当の気持ちを伝えよう。
繭子は進から、ものづくりは人とともに生きる仕事だと教わった。