「そう言えばおばあちゃん猫を飼っていてね、美弥花はいつも少し怖そうにおばあちゃんの背中に隠れてこっそり見ていたよね」
母が電話の向こうで微笑んでいる顔が思い浮かんだ。
猫――あの猫だろうか?猫は不思議な力を持つという。おばあちゃんが飼っていたという猫が、あちらの世界とこちらの世界を繋いでくれたのだろうか?
「おばあちゃん、いい人だったのよ。私にもずいぶんと良くしてくれたわ。今更だけど不義理なことをしてしまったわ」
母の声が少し沈んだ。しかしすぐにいつもの調子に戻って言葉を続けた。
「近いうちにお墓参りに行きましょう、二人で。おばあちゃんもきっと喜んでくれるわ。蒲田……懐かしいわねぇ……」
いつも先のことしか考えない母の頭の中には、もうすでに蒲田の街の風景が広がっているのかもしれない。