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『落とし物のゆくえ』大木泉

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 この手袋はどうなのであろう。しみになったり、色落ちとか縮むとかあるのかな。眺めていても、当然カヤコには判断がつかない。自分がさっさと届けていればよかったのに、バッグに入れなければ、いや、そもそもペットボトルのキャップくらいきちんと閉めようよ、などと考えていると、やはり、このまま知らん顔をして手袋を届けて済ませてはいけない気がした。正直に事情を話して、こちらの連絡先を伝えたらいいかな。もし何かあったら連絡をもらえるように。クリーニングとか、弁償とか、あぁ、それで済まない大切な品だったらどうなっちゃうんだろう。
あれやこれや考えを巡らしながらインフォメーションカウンターへ向かおうとしていたカヤコは、その時、タイムリーにと言うべきなのか、目の前の商品棚に並んだいくつもの手袋に気づいた。

 思わず足を止めると、そこは手袋の専門店のようだった。ぱっと見ただけでも、様々なサイズや素材の物があり、彩りも豊かだ。今まで入ってみたことはなく、そう言えばこんなお店もあったんだっけと思ったが、このような時でなかったら、ゆっくり眺めてみたい品揃えである。
 ふと自分が手にしているのと似た感じの皮手袋が目に入って、カヤコはその棚に近づいた。先ほど弁償のことなど考えたところだったので、つい値札にまで目を走らせていると、いつの間にか側に来ていた女性の店員が                 
「よろしかったら、手にとってご覧になって下さい」
 と声をかけてくれる。
「あ、あの、ここにあるのは皮の手袋ですか?」
「そうですね」
 と言いかけた店員は、カヤコが手にしているものに気づいたようだ。
「そちらは、お客様の手袋ですか?どうかされましたか?」
「えっ、あ、いえ、ちょっと水に濡らしてしまって、しみになるかと思って。あ、でも、どこの店で買った手袋かはわからないんです」
 もしかして自分は、ものすごく不審な行動をしているのではないだろうかと、説明もしどろもどろだ。
「大丈夫ですよ。ちょっと見せていただいてもよろしいですか?濡れてもしみにならないようにしたり、しみになってしまった場合も、目立たなくする方法などもございますので」
 と店員が言ってくれる。藁にもすがる思いのカヤコは、ありがたく手袋を差し出した。
「あら、この手袋、私どもの商品ですね」
「そうなんですか!」

 その時カヤコは、バックルームのほうから出て来た別の人物に気づいた。何気なしに視線を向けると、それは若い男性で、先方もこちらを見ている。目が合ったカヤコは、そこで本日一番の驚きに見舞われた。何と、さきほどのインフォメーションカウンターの男性、いつぞやの本屋の平台の男性ではないか。
 何故だか向こうもカヤコを見て驚いている気がしたが、それは気のせいかもしれない。一瞬の間をおいて
「いらっしゃいませ」
 と声をかけてくれる。さらにカヤコが女性店員に渡した手袋に視線を移すと、すぐに、おや、という顔になって近づいて来た。
「私どもの商品ですね。こちらでお買上げいただいたんですか?」
 ここの店員さんだったのか、ル・ポールで働いている人だったんだ、と、カヤコは驚いたが、半分は納得する気持ちになる。それで何度もこの辺で見かけていたのか。

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