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『落とし物のゆくえ』大木泉

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 と思わず、半分ため息のような声が出た。よりにもよって人様の手袋が濡れている。親指の付け根のあたりが3センチ四方くらいに色が変わってしまっていた。これってまずくないのかな。この手袋って皮だよね。カヤコは自分の持っていたハンカチが湿っていないことを確認してから、手袋の濡れた部分に押し当てるようにしてみた。こすってはいけない気がしたので、少しでも水が吸い取れないかと、手袋の中に軽く手を入れて押さえながら上からハンカチをあてがう。
 その頃には手洗いも済ませ、しっかり自分のタオルで手も拭いた女の子が、逆に
「だいじょうぶ?ぬれちゃったの?」
 とカヤコの手元を覗き込んで来た。さきほどまでの心細そうな様子は、母とはぐれたことだけではなく、トイレが心配なせいもあったらしく、今は少し落ち着いて元気を取り戻したようである。
 こっちはトホホだよ、と言いたくなるカヤコだが、そういうわけにも行かない。
「ごめんごめん。お母さんも探してるかもしれないから、行ってみよ」
 さきほどのインフォメーションカウンターに連れて行こうと決めた。それが一番確実であろう。お母さんがどんなにか慌てているかもしれないと思うと、そちらも気がかりで、女の子の背を軽く押すようにしてトイレを出た。

「サーちゃん!」
 いくらも行かないうちに、後ろから女性の声が聞こえた。
「ママ?」
 女の子が振り返るのとほぼ同時に、カヤコと同年輩の女性が息を切らせて追いついて来る。                              
「よかった!サーちゃん、探したんだよ」
 すぐにしゃがみこんで、女の子の肩に手をかけた。                      
「ママ、ごめんね。サーちゃん、風船のとこに行っちゃったの。ママを探してたらトイレしたくなって、お姉ちゃんが連れて来てくれたの」
 うん、うんと頷く母親の目は、ちょっと潤んで来ているようだ。
「ありがとうございます!」
 と、母親はカヤコに深く頭を下げた。
「助かりました。もうびっくりして、辺りを探したんですけれど、今、お店の人にお願いに行こうと思ってたんです。本当にすみません!」
「とんでもないです。私なんて何も」
「いえ、本当にありがとうございました」
 母親は心底ホッとした様子で、立ち上がるとぎゅっと女の子の手を握った。女の子も
「お姉ちゃん、ありがとうございました」
 と母の言葉を真似るように挨拶をする。そのにこにこ顔を見ていると、思わずカヤコもうれしくなった。
「よかったね」
 しっかりと手をつないだまま、なおも振り返りながら去って行く親子を見送ったカヤコだったが、安堵もつかの間、そこでみたび我に返ることになった。
 それで、この手袋、どうしよう。

 ハンカチごと手に持ったままの手袋を、もう一度確認する。当たり前だが、やはり濡れている。
 カヤコは以前に、外出中に不意の雨に降られて皮のバッグを濡らしてしまったことがある。小雨だったが、その時は雨粒の薄いしみが残ってしまった。良く見ないとわからない程度なので、その後も使っているが、それ以降、防水スプレーなどの手入れは定期的に行うようにしている。

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