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『落とし物のゆくえ』大木泉

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「えっと・・ショートは小さいサイズで、トールはそれより大きいのですよ」
「ははぁ、SとかMじゃいけないんですかね」
 たしか別の階にフードコートもありますよ、とカヤコは口にしたくなったが、その前に男性は言った。
「ちょっとこの店のコーヒーが飲んでみたかったんですよ。いつもいい匂いがしているし、あの表の席も気持ち良さそうですしね。それがメニューがさっぱりわからなくてね」
「あ、お店の方が説明して下さると思いますよ」
「いやいや、あそこに行って、後ろの人を待たせながらあれこれ聞く勇気がなくてね」
 と男性はちょっと照れくさそうにする。カヤコは、私も急いでないわけじゃないんだけどなーと思うものの、つい真剣に話を聞く体勢になってしまった。たしかにわかりにくいかも、と若干の共感を覚えたからでもあった。
「えっと、とりあえず、本日のコーヒーっていうのを頼まれたらいいかもしれませんよ」
 結局カヤコは、一緒にメニューを決め、サイズを決め、注文して支払いをしたら横のカウンターからコーヒーが出て来ますから、などとお節介気味の説明までしてしまう。男性は納得した様子で、
「ありがとうございます。助かりましたよ。お礼に、一杯おごらせてもらえますか?良かったら好きなものを頼んで下さい」
 とにこにこした。そこに至ってカヤコは、こんな場合じゃなかったんだっけ、とはっとする。
「あ、私は今お腹いっぱいなので。失礼しますね」
 それでも結局、急いでいるのでとは言えない自分に、少々ため息が出た。

 ほどなくインフメーションカウンターが見えて来る。が、そこに若い男性の先客がいるようだと気づいた瞬間、カヤコは足を止めていた。遠目にも、知っている人だとわかったからだ。と言っても、知り合いというわけではない。一
 方的にこちらが見知っている人だというだけだ。
 半年ほど前のことになるか、仕事帰りのカヤコはル・ポールの書店に立ち寄った。カヤコの職場があるのは、このル・ポールと同じ最寄り駅ではあるが、出口が反対側になるので、そう頻繁にここに来ているわけではなかった。その日のお目当ては好きな作家の新刊本で、ついでに何か面白そうなものがないか探して行こうと、大型書店が入っているル・ポールに寄ってみたのだった。
 真っ先に新刊の並ぶ平台に近づいて行くと、向こう側から歩いてきた男性が、一足先に平積みの本の前で足を止め、カヤコが買おうと思っていた本に迷うことなく手を伸ばした。 手にした本をすぐにその場で開こうとしたようだったが、こちらの気配に気づいたらしく、男性は場所を譲るような感じですぐに他の書棚のほうへ行ってしまった。ただそれだけのことだったのだが、カヤコはその人の顔を覚えていた。自分も楽しみにしていた本だったので何となくうれしくなって、ちらちら様子を伺ってしまったからだろう。
 しかも、その後さらに2回ほど、カヤコはその男性を見かけた。一度はル・ポール内で、もう一度は駅の改札の前で。随分奇遇だなぁと思い、この近くに住んでいる人なのか、それともやはり勤め先がこの辺なのかなぁなどと考えていた相手が、今、目の前にいるのである。
 こんなに偶然が続くってこと、あるんだなぁとまず驚いた。そして、せっかくだから話しかけてみたいような、かと言って、相手は自分のことを知るわけもなし、何度もお見かけしましたなどと言われたら気持ち悪いだけではないのか、などという考えもよぎった。それはほんの一瞬のことだったのだが、その間に男性は用事が済んだらしく、カヤコの逡巡をよそに、カウンターから足早に立ち去って行くのが見える。

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