遠藤遊歩ことゆんぽは、仲のいい幼馴染の一人で、商店街にある八百屋の息子だ。いつもお店の手伝いをしているからか、声がやたら大きい。理由はあまり覚えていないけど、「遊歩」という名前が、いつの間にか「ゆんぽ」になっていった。
「いつ引っ越すの?」
「来週、月曜」
「来週!?って、今日がもう金曜日だから……三日後じゃん!」
予想通りの反応。逆の立場なら、ぼくも同じ反応をするだろう。
「青梅かぁ……青梅ってどこ?品川あたり?」
「えぇ!?それ、本当に言ってる!?全然違うよ!東京の端っこ。ここと違って森とか多いし、川も綺麗なんだ」
「へぇ!いいなー、うちなんてさ、どっちの親のじいちゃんばあちゃんも近くに住んでて、夏休みとかも帰る田舎なんてないから羨ましい。何より綺麗な空気が吸えるのが羨ましい。いいなー、森とか川。いいなー」
ゆんぽの家の目の前は、道路で、車がよく通る。だから、ゆんぽは人一倍、澄んだ空気の場所に憧れが強い。ぼくの家も違う理由で空気が綺麗とは言えなかった。お父さんが作業してる所為で、家の周りはいつも何だか煙たくて、すごく嫌だった。だから、綺麗な空気を毎日吸えるのは、ぼくも嬉しい。
「そういえば、バントウとヤンちゃんはもう知ってるの?」
「二人とも違う奴らと遊んでたから言ってない。今日、学校終わるの早いし、重大な話しがあるから、タイヤ公園に来いとだけ伝えた。どうせなら、驚かせてやろうと思って」
「いいねぇ、あいつらびっくりするだろうな。あ、どうせなら、あれを頼もう」
「おぉ!良いこと言うじゃん」
ぼくとゆんぽは、イタズラを考えるときみたいにワクワクしてきた。チャイムが鳴ったので、急いで席に着く。窓の外を見ると、雲がだいぶ増えていて、太陽の光が雲間から差す程度になっている。今日は、雨降るのかな。
蒲田の南にあるタイヤ公園の滑り台は、他の公園の滑り台と違ってとても広い。バントウとヤンちゃんは、滑り台の下の砂場から、ぼくとゆんぽを見上げている。
「重大なことって何だよ、早く教えてよ」
ずっと気になっていたらしく、バントウのうずうずした姿を滑り台の上から見るのは、とても可笑しい。
「ねぇ、今日、店の手伝いしないといけないから早くしてほしいんだけど」
それに比べて、ヤンちゃんは澄ました口調だ。でも、強がって気にしてないフリをしているのはお見通しだ。小さい頃から一緒にいるからすぐわかる。
「おいおい、修平様の秘密をただで聞けると思ってんのかよ!」