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『ぼくは雨中を視る』十塚三太

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 来週、ぼくはこの街を去ることになった。いや、去らざるを得なくなった。
 それは、朝の食卓で突然告げられた。
「修平、お父さんがいなくなって色々あってね、わかるでしょ?それでね、急で本当に悪いけど、来週、おじいちゃんの家がある青梅に引っ越すことになったから」
 箸が止まる。
「小学校の先生には、もう言ってある。……修平。聞きたいこともいっぱいあるだろうし、納得もいかないと思う。でも、仕方ないの」
「そうなんだ、まぁしょうがないね。工場は閉めるの?」
「へ?あぁ、そりゃ当たり前でしょ。お父さんいないのにどうやって機械動かすの」
 お母さんとしては、「嘘だろ!急にそんなこと言われても納得できないよ!」みたいな反抗的な態度を取ると考えていたのか、すんなり受け入れられたことで拍子抜けしている。ふふん、お母さんは、ぼくの気持ちをわかっていない。嬉しさのあまり、テーブルの下で、足をパタパタさせてしまう。
「お前、何だか嬉しそうじゃん。何で?転校しないといけないんだぞ。4年生で転校とか、次の学校で虐められるかもよ」
「健人!変なこと言わないの!」
 ドキッとして足が止まる。黙々とご飯を食べていた兄の健人が突っ込んでくる。兄ちゃんのこの余裕、さては兄ちゃん、知ってたな。
「全然平気だよ!兄ちゃんこそ、専門学校まで遠くなっちゃうけど、大丈夫かよ」
「俺は、お子ちゃまとは違って大丈夫なの。自分の心配でもしてろよ」
 ムカつく。お兄ちゃんはいっつも偉そうだ。9歳離れていることをいいことに、ぼくに対して、俺は何でも知ってますよ。みたいな態度をとる。今年、高校を卒業して、駅前にある専門学校に進学してから、ますます偉そうになった。
「あ、もうこんな時間かよ!プレス機の音がしないから感覚狂う。もう行くわ、行ってきます!」
 プレス機の音。毎日、きっちり七時半に家中に鳴り響いていた、あの音。お父さんは、絶対に決まった時間に家の下の工場で仕事を始めていた。機械の音は、単純にうるさいし、音で壁を作られているようで、嫌いだった。
「修平も早くご飯食べちゃって。あと、友達にお別れちゃんと言っておきなさいよ」
 お別れ……。ゴミゴミした街、居酒屋とパチンコ屋ばっかの街、ボロい工場兼我が家。ここから離れられるのは、嬉しい。けど、みんなと離れるのは、少し寂しい。
 それにしても、起きたときは晴れていたのに、ちょっと雲が出てきたみたいだ。

「修ちゃん、引っ越すの!?いいなぁ!」
 他のクラスメイトに聞かれたかと思って、慌てて周りを見る。誰にも聞かれていないようで、ホッとした。
「ゆんぽ、声大きいよ」
 ゆんぽは、悪いと思っていない顔で、ごめんごめんと謝ってくる。

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