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『KAMATA55』室市雅則

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 本番前日、太田垣は机に向かっている平山の背後で、コーヒーを啜りながら尋ねた。
「何とか……。精一杯やります」
 太田垣が平山の肩を掴んだ。
「ドアの所に、明日の衣装置いておくから」
「え、そんな予算は――」
「ま、それは、まあね。頼んだよ」
 ぐっと肩を掴む力を強めて、太田垣は事務所を出て行ってしまった。
 その背中を目で追いながら、肩に残された熱を平山は感じた。
 入り口に置かれた段ボールを平山が確認する。『KAMATA5』と可愛らしくプリントされた黄色のTシャツであった。そして、中には納品書がそのまま残されていた。それを読むと、支払いが太田垣個人となっていた。太田垣が自腹で準備をしたのだった。
 Tシャツを広げて眺めた。粋なことをするものだと思った。

 本番当日。
 ステージ裏に控えた全員が黄色のTシャツを身に纏っている。
 イベント開催の挨拶がされている間、平山が客席を覗くと子供から大人まで超満員であった。裏に戻って、メンバーに報告をする。
「やばいです。満員です」
 平山が青い顔をして話すと、いきなり真田の張り手が飛んで来た。
「何するんですか――」
「気合い。気合い」
 真田が言うと、今度は、小春の小さい手が平山の頬を捉えた。
「気合い。気合い」
 小春は真田と目を合わせて笑った。まるで姉妹だ。
 続いて樹里亜と高橋が平山の頬を撫でるようにはたいた。
「気合い。気合い」と樹里亜と高橋が声を揃えたので、平山も笑ってしまった。
「よっしゃ!」
 平山は自分で頬を叩いた。
「先生は?」
 樹里亜の声に一同は辺りを見渡したが、その姿はなかった。
「それでは、今回の為に蒲田在住のメンバーで構成されました『KMT5』の登場です!」
 呼び込みのアナウンスがされ、拍手が聞こえた。
 一同は円陣を組み、平山が声を出した。
「みなさん、よろしくお願いします」
「かたいよ」
 真田の一言に再び一同が笑った。
「じゃあ、センターの小春から一言」と真田が小春を促した。
「がんばろー!」
「がんばろー!」
 メンバーは声を揃え、ステージへと飛び出した。

 大勢の観客に平山は緊張した。しかし、太田垣が客席で『KAMATA5ガンバレ!』のプラカードを掲げているのを見て、少しだけ緊張が和らいだ。
 真田は観客の中に、慣れないスーツ姿の父に気が付き、樹里亜と小春は、手を振って応援をする同級生を見つけ、高橋は夫がいつもの様に、むすっとしながらも最前列に座っているのが分かった。
 そして、音楽がかかり、最初で最後の本番が始まった。
 無我夢中。
 あっという間に終わった。
 大勢の観客は沈黙し、メンバーの呼吸音だけが聞こえる。
 客席の奥の方から小さな拍手が聞こえた。

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