メンバーはそちらを見やった。
桃井だった。
桃井が目尻のファンデーションを割りながら手を叩いている。そして、地肌のままの手を胸元まで上げた。
全員がその手を見つめた。
桃井は自分の胸を叩き、親指を立てた。
一同が喜ぶ間も無く、観客からの歓声と大きな拍手の渦が巻き起こった。
それは、青空に照らされた東急プラザの屋上から、蒲田全域に響き渡った。
「平山君、ありがとう」
イベントを大成功で終えた翌日、太田垣は上機嫌であった。
「課長こそ、色々ありがとうございました」
「平山君ならやってくれると思ったんだよ」
太田垣は得意げな様子である。
「どうだい、今夜ちょいと」
太田垣が徳利を傾ける仕草をした。
「すみません。今日はちょっと」
「おっ、それは残念だな。何か用事かい?」
「はい」と平山はカバンから太田垣が提供したTシャツを取り出した。
「それがどうしたの?」
「よく見て下さい」
太田垣が確認すると『KAMATA5』のロゴの横に数字の『5』が書き加えられている。
「55?」
「はい」
平山が立ち上がり、事務所の扉を開けた。
老若男女が事務所の中になだれ込んで来て、事務所がぎゅうぎゅうになった。
「平山君、何? どなた?」
「新メンバーです!」
『KAMATA5』のパフォーマンスを見た蒲田の人々が我も我もと集まったのだ。
ついに『KAMATA55』となった。
平山が曲を流した。
『KAMATA55』が一斉に踊り始め、太田垣もリズムに乗って事務所の扉を開き、叫んだ。
「街へ出よう!」