厨房の店長はチャーハンを盛り付けると、平山たちの所に出て来た。
「どうも。うちの娘がどうかしましたか?」
平山は真田の実家が中華料理店であることを初めて知った。平山が続ける。
「私たちは一緒にダンスをやっていまして……」
「ああ。ちょっと待って下さいね」
真田の父が階段下から、上に向かって声をかけた。
「舞。ダンスの友達! 降りて来なさい」
真田からの返事はない。
「おい! 舞!」
それでも真田からの返答はなかった。
真田の父が平山たちに頭を下げた。
「すみません。父一人子一人。甘やかして育ててしまったようで……」
「いえ、そんな」
「テンチョー。ギョウザ、ツイカ」
「あいよ。すみません。良かったら上に行って頂いて……」
「それでは……」
平山が階段に足をかけると雑誌が降って来た。
「舞!」
「帰って!」
「テンチョー! ギョーザ!」
平山は踵を返し、空いているテーブルに座った。
「餃子とビールをお願いします。この店の羽根付き餃子、大好きです」
「わ、私も」と高橋が座り、樹里亜と小春も続き「オレンジジュースとビールで」
空になったジョッキと餃子の皿がテーブルに並んでいる。
平山、高橋、樹里亜はビールで顔を赤くし、小春はすっかり寝てしまった。真田の父が声をかけて来た。平山たち以外の客はすでにいない。
「今日は、すみません」
「いや、お父さん、わたしゃ、しつこい、お、男ですよ。娘しゃんが出て来るまで、帰りましぇんよ」
平山はすっかり酔っ払っていた。そして、高橋も酔っていた。
「そうよ。私も、私だって……」と高橋は泣き出してしまった。泣き上戸であった。
ドンとジョッキがテーブルに叩きつけられた。樹里亜だ。立ち上がったかと思いきや、階段に駆け寄った。
「おい、出て来い! うちはね、旦那と別れて、小春と二人で、この街にやって来て、また新しく始めるきっかけにって思って応募したんだ。それで、心機一転、綺麗なスタートって思ったら、凄い子がいるじゃん。負けたと思ったよ。あんた、めちゃくちゃ上手いじゃん! 悔しいって思ったけどね、あんたがいれば大丈夫って思ったんだよ! だから、一緒にやりたいって思ってる。ギスギスしたけどさ」
店内を静けさが包んだ。
階段を踏みしめる音が静寂破り、真田が顔を出した。俯きながら、何かを言おうと口をもごもごさせている。ついに、真田が口を開こうとするやいなや、「やったー!」と平山が駆け寄って、段差を利用して真田を肩車した。
「KAMATA5! KAMATA5! KAMATA5!」
一同で声を合わせた。小春もその騒ぎで目を覚まし、さながら祭りとなった。
練習最終日がやって来た。無事に全員が揃っている。
やはり開始時間ジャストに桃井は現れ、既にポジションについた一同をぐるりと見た。
「じゃあ、やってみよう」
最後の練習が始まり、終わった。
一同は桃井の感想を期待したのだが、桃井は「じゃあ、本番まで体調管理に気を付けて」とだけ言っただけで解散となった。
良いのか、悪いのか、全員が掴めていなかった。
「平山君、調子はどうかな?」