素人の平山でも分かるくらいだから、真田も分かったのか俯いてしまった。
「真田は何の為に踊ってる?」
桃井が尋ねた。
「……自分の為です。完璧に踊りたいだけです」
「そうね。悪くない。じゃあ、高橋は?」
突然、指名された高橋は身を強張らせた。
「え、あの、みんなに迷惑かけないためです。踊れていませんけど……」
桃井は頷き、小春を見た。
「小春は?」
小春が胸を張って言った。
「お客さんに楽しんでもらう為です」
その発言に、小春が小学生であることを平山は一瞬、忘れてしまった。自分に翻ると『ただ間違えないようにする為』だけであった。
桃井が語りかけるように話した。
「これはショーなんだよね。お客さんに見てもらって完成するショーなのよね。自分の為も悪くはない。キレイにやろうとするのも悪くない。でも爆発してないんだよね。ここが」
桃井は自分の胸を叩いた。
「私の踊りじゃ、ダメって言いたいんですね」
真田が声をあげてスタジオを飛び出してしまった。
『またかよ』と平山は心の中で呟いた。
「よくいなくなる子たちね。じゃあ、また来週。あと一回」
桃井も出て行き、四人が取り残された。互いに目を合わせた。
「時間まで四人で練習しましょうか……」
平山が提案をした。
「追いかけなくて良いんですかね? 練習は次が最後ですし……」
高橋が呟いた。一同は沈黙した。
「私、行って来ます」
平山が向かおうとすると「みんなで行きましょう」と樹里亜の声が掛かった。
「もう時間がないし、みんなで話しましょう」
一同は運動着のまま真田を追いかけた。
アプリコを出ると駅の方に向かう真田の背中が見えた。
平山が先陣を切って駆け寄った。
「待って下さい。みんなで練習しましょうよ」
真田は足を止めない。全員集まったが、真田は無視を決め込んでいる。
どうすれば良いのだろう。太田垣が高橋を説得したように、自分にも何か方法がないだろうかと平山は追いかけながら考えた。
その内に、駅を越え、サンロードまでやって来た。そして、真田は入ってすぐにある中華料理屋『朋友(パンヤオ)』に入った。平山たちもここで引っ込むわけには行かないので、店に入った。「いらっしゃいませー」と元気な声が響いた。
賑わう店内を眺めるが真田の姿はない。餃子を運んでいる若い女性店員に平山が尋ねた。
「あの、すみません。今お店に来た女の子なんですが」
「チョト、マテクダサイネ。テンチョー」
中国の方がアルバイトをしているらしい。
「あいよ」
厨房で中華鍋を振るう男性が返事をした。
「マイチャン、オキャクサンデス」