朝一で平山は太田垣に抗議した。
「頼む。やり切ってくれ。私の為に。いや、この街の為に」
太田垣は頭を下げた。
素直な太田垣の言葉と態度に平山はこれ以上、詰めることが出来なかった。太田垣はまだ頭を下げている。
「課長、止して下さい。分かりました」
平山の言葉に太田垣はさっと頭を上げて、にんまりとした。この人は煮ても焼いても食えないかもしれないと思った。
「で、どうだった?」
平山は昨日の練習の一部始終を伝えた。先生がピンクおじさんである驚き以上に、実力不足やチームの不和が問題であると訴えた。だが、太田垣には響かなかった。
「終わらないイベントはない。頑張ろう」
太田垣は平山の肩を叩くと「打ち合わせに行って来ます」と出て行ってしまった。
平山には不安しかなかった。
あっという間に二回目のレッスン日。
平山は、初日の練習風景を撮影した動画で流れは覚えたが、アパートでドタバタするわけにはいかず、体を動かすことはろくに出来なかった。
平山が一番にやって来てスタジオを開けた。次に真田がやって来た。
綺麗だと今回も思ったが、前回を思い出し、『怖い』の評価も追加した。
続いて、梅木親子が現れた。
二人に平山が挨拶をすると笑顔で返してくれたが、真田の方には見向きもしなかった。
大丈夫か、このチーム……。
時計の針が七時を指すと同時に桃井は登場した。高橋はやって来ない。桃井が一同を見渡した。
「高橋は?」
「お、遅れているようです」
平山が答えた。
「あ、そう。とりあえず始めて。じゃあ、真田から一人で踊ってみて」
早速、真田が踊った。平山には完璧に見えた。
真田が踊り終えると、桃井は感想を述べず、修正点のみを伝えた。
それは、微に入り細を穿つもので、理に適っており反論の余地はなかった。
次に小春の順番となったので、平山はスタジオを出て、高橋に電話をかけたが出ない。試しに自宅にもかけてみたが、やはり出なかった。
諦めてスタジオに戻ると小春がちょうど踊り終えたようだった。
「まあまあね」と桃井は、真田の時にはなかった一言を放って、修正点を伝えた。真田はもちろんその違いに気が付いていた。
続いて、樹里亜、平山の順番で踊った。
平山は緊張をしながらも、目一杯に踊った。これまでの三人は踊りになっていた。だが、平山はその手前の段階だ。振りは間違えるし、リズムもずれていた。
何とか踊り終えた。平山は息を切らしながら桃井を見た。
「繰り返しやるしかないわ」とだけ桃井からあり、修正点等はなかった。
次はどうなるのかと思っていると、桃井が一度手を叩いた。
「じゃあ、あとは自主練。全員が揃っていないとダメ。あと二回だってのにね」
桃井は一同を置いて、スタジオから出て行ってしまった。
平山はどうして良いか分からなかった。
すでに真田は一人で鏡に向かって踊り始め、梅木親子も互いに見やりながら、練習を始めている。
バラバラである。
しかし、限られた時間に自分も練習をしなければならない。平山も鏡に向かって踊った。だが、やはり上手くいかない箇所がたくさんある。アドバイスを貰おうと、隣にいる真田に声をかけた。
「集中しているんで、声かけないで下さい」