危ない! ふらついたおばあちゃんが、腰から地面に倒れそうになる。
そのおばあちゃんの体を、明日香より早く支えた人がいた。壇上から飛び降りた一将だった。一将は、おばあちゃんを抱き起こすと、その手を握った。
「うちに帰ろう。おふくろ」
手をつながれたおばあちゃんは、一将の顔を不思議そうに見上げると、ふと、口を開いた。
「ありがとう、かずまさ」
そのやり取りは、明日香の耳に届いた。ずっと一緒にいる孫の名前は間違えるくせに、何だよ、ばあちゃん……。明日香は悔しいのか嬉しいのか良く分からない気持ちで、寄り添う二人を見詰めた。
一将が、棒立ちになっている明日香に気づいた。気色の悪い笑みを顔いっぱいに浮かべ、こちらに向かって手招きをしている。
無視しろ、逃げてしまえ、その手に乗るな!
そう心の中で呟きながらも、明日香の足は前に向かって、歩み出していた。
またどこかで、大きな歓声が上がった。