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『つながる思い』網野あずみ

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 駅ビルの屋上にある小さな観覧車に乗って、西日を背に受けながら、明日香は携帯電話のディスプレーに表示された三文字を、じっと見詰めた。
『父帰る』
 ちち、かえる……。
 その言葉を何回か口の中で繰り返しているうちに、メールの送り主の顔が嫌でも頭に浮かんできた。
(何をいまさら)
 明日香の勝気そうな顔が歪んだ。彼女はメッセージを既読にしてしまったことを、大いに後悔した。できうることなら、そのふざけたメッセージを送り主ごと削除してしまいたかったが、それができない自分に腹が立った。
『父帰る』
 それは10年前に家族を捨てて家を出ていった、父、一将からのメッセージだった。自分の娘に嫌な思い出を残し、散々苦労をかけた挙句に、ごめんのひと言もなく、――ちち、かえる。
 画面の文字が、明日香をあざ笑っているかのように見えた。
「くそったれ! 許さん!」
 明日香は腹立ち紛れに、携帯を観覧車の床にたたきつけようとした。
 が、しかし、勢いよく振り上げられた手が、床に向かって振り下ろされることは決してなかった。気持ちをすっきりさせることと、買い替えてからまだ半年しかたっていない新しい携帯を失うことの損得を勘定できるぐらいの冷静さは、辛うじて残されていた。
 今日のように気持ちがくさくさするときには、この観覧車に乗って、気分が収まるまで、何周でもぐるぐると回ることにしている。
 窓の外では、係員のチン助が困り果てたようにこちらを見上げている。ぐっとひと睨みしてやると、チン助は今にも泣き出しそうな顔になった。口元が、「降りてくれよ。オレ、首になっちゃうよ」と言っている。小学校以来の地元の同級生で、三十路に近づいた今でも、チン助は相変わらず弱っちいままだった。
 ふと、手の中で携帯が震え、新たなメールの着信を知らせた。見ると商店街の知人からの連絡だった。
『おばあちゃんを確保』
 明日香は慌てて観覧車を飛び降りると、ほっとしているチン助に「また来るぞ」と脅しを入れ、地上階行のエレベーターに飛び乗った。
 夏も終わりに近づき、夕方は少し涼しくなる。明日香はおばあちゃんの服装を心配しながら、アーケードとなっている商店街を小走りに走っていった。
「さっちゃん、ごめんね。連絡ありがとう」
 商店街の外れにある青果店の店先で、おばあちゃんはダイコンや白菜と並んで、木箱の上にちょこんと腰かけていた。
「椅子を勧めたんだけれどね、ここがいいって、動かないもんだから」
 青果店のひとり娘の佐知子が、おばあちゃんに目をやりながら、苦笑いをした。
「これ見て」明日香は携帯に表示されたメールの受信記録を佐知子に見せた。「スーパーの敬ちゃんから始まって、ブティック田中でしょ。それからラーメン屋の大将、クリーニング屋のおばちゃんときて、和菓子屋を回ってから、最後にさっちゃんとこよ。今日は、南ルートを時計回りだな」

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