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『孝太郎じいさんと赤いゴンドラ』鈴木りん

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 孝太郎は、二人の尾行を知ってか知らずか、エレベーター乗り場の手前で立ち止まった。そのエレベーターは、「屋上」へ直行するためのものだった。
「屋上って……。じいさん、遊園地に行くのかよ」
「コータロー、遊園地でデートなのかも知れないわね」
「で、デートぉ?」
 ついつい声を張り上げてしまった和希が、すぐに壁の陰の奥深くに隠れる。
 慌てた愛美も和希の背中にへばりつくようにして、同じく行動。ちょっと時間をおいて恐る恐る壁から顔を出した二人がエレベーターの方向を見ると、孝太郎に和希の声は聞こえなかったらしく、先程と同様、彼は屋上から降りて来るエレベーターを待ってじっと左右開きのドアを見つめていた。
「ふうう、危なかったああ」
 ほっと一息を吐いたのも束の間。屋上行エレベーターの扉がすっと開いたことを確認した孝太郎が、その奥の空間に向かって前進した。
「やっぱり……。行き先は屋上の遊園地で間違いないみたいね」
「本当に、デートなのかよ!」
 二人は、今しがた孝太郎が乗り込んだばかりのエレベーターの乗り場前に移動した。
「くっそー、コータローのヤツ……。なんで彼女ができたって俺に言ってくれないんだよ。水臭いぜ」
「マッツー。あんた、コータローの何なのよ」
「あん? 決まってるだろ、“親友”だよ! 友情に年齢差は関係ないんだぜ」
「それって普通、“愛”に使うセリフのような気もするけど……。まあ、いいわ。あんたがコータローのことを好きだってことは伝わった」
「おう、それが伝われば、御(おん)の字だ」
「御の字ですって? マッツー、あんた本当は七十歳くらいなんじゃないの?」
「何、バカなこと言ってんだ。俺は、ただの天才少年だぜ」
 そんな会話をしているうちに、エレベーターが一階まで降りて来る。
 二人は、屋上で扉が開いたときに孝太郎に見つからないようエレベーターの奥へと進み、他人の陰に隠れた。
 屋上に到着したエレベーターの扉が開き、ねちっと湿った空気が中に飛び込んで来る。
いつもなら、すぐに観覧車に直行するところだが、ここは我慢の小学生二人。まずは、コータローじいさんがどこにいるのかと、こそこそエレベーターの外に出て、壁の陰から辺りを窺った。
「あ、いた! あそこだ!」
 抑えた声の和希が、観覧車のある方向を指差す。
 視力2.0の彼が捉えた孝太郎の姿は、今まさに観覧車の前にあった。
 九つだけの、まるでチューリップの花のように可愛いゴンドラ。背丈も巨大遊園地のそれと比較すれば赤子のように小さいけれど、地元の人々には長年愛されていて、“幸せの観覧車”とも呼ばれている。その色とりどりのゴンドラが回転する姿は、春のお花畑のようにも思えるほどだ。
 そんな、観覧車乗り場の横にある運転室。
 青色の四角い物置のような建物にはひとりのベテラン運転係のおじさんがいて、その日焼けした顔をサッシ窓から覗かせていた。
 歳の頃は、孝太郎より一回り若いくらいだ。
 気軽におじさんに声を掛けて談笑する孝太郎には気付かれないよう、抜き足差し足、エレベーターから降りて二人が屋外に出る。
「もしかして、あのおじさんがコータローの彼女……いや、彼氏なの??」
「ま、マジか……。そうなのかよ、コータロー!」
 そのとき、園内に重々しく “蛍の光”の音楽が流れだした。言うまでもなく、お客さんに営業時間終了間近を知らせるものである。
「そうか。ここって、午後六時に閉園よね。ってことは、残り時間はあと十分(じゅっぷん)……」
 続々と、家路に就こうとする人々がエレベータの前に集まっていく。

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