そんな言い合いをしながら三人が興じているのは、孝太郎が二人に最近教えている昔の遊び――ベーゴマだった。
鉄の塊みたいな銀色の三角形のコマ。それを紐でぐるぐる巻きにして、公園のアスファルト舗道に向かって投げだすと勢いよくそれが廻り出し、相手が投げたコマとぶつかって喧嘩を始める――という遊びなわけだが、さっきから廻っているのがコータローじいさんのコマだけなので、ちっとも喧嘩にならないのだ。
二時間ほどコマと格闘したものの、全然上達しないのでふてくされてしまった小学生二人は、ついに廻すのをやめてしまう。自分だけしかコマを廻せないことを大人げなく自慢する孝太郎に鼻を鳴らした和希が、自転車のカゴの中からあのバッグを取り出した。
中から出てきたのは、プラスチック製の現代的なコマだった。テレビアニメでもおなじみの、刺し込んだギザギザベルトを引くことにより回転させる遊び道具だ。
「俺、これならできるもんね」
「なんじゃそりゃ。それがコマなのか?」
「あ、それならアタシもできる!」
じいさんが持って来たベーゴマを放り出した愛美が、和希の元に駈け寄った。今度は、それを見た孝太郎が不服そうに頬を膨らます番だった。
「そんなコマ、ワシには廻せん……って、もう五時半じゃ! では、また明日な!」
そう言い残した孝太郎は、ベーゴマとそれを廻すためのタコ糸をズボンのポケットの中に手際よくしまうと、とても七十代とは思えない身軽さで公園から去って行った。
その“大漁旗”のような後姿を見送りながら、タコ糸で指を痛めたらしい和希が顔をしかめながら言う。
「そういえば……いつもコータローって、五時半ぴったしに帰るよな」
「うん、確かに。何か事情でもあるのかな」
「どうなんだろうな。でも、もしかしたら何かすごい秘密があるのかも……。コケマ、後を追っかけて調査してみようぜ」
「マッツー、それ面白そうだね。うん、追っかけてみよう!」
興味津々、目をランランと輝かせた二人は、プラスチックのコマをデイバッグに放り込むと自転車に跳び乗った。
おじいさんの消えた方向に向かって、急いで自転車を漕ぐ。
公園の入り口に辿り着いて辺りを見渡してみたものの、既に孝太郎の姿はなかった。
「ちっ……見失ったぜ」
「まあ、明日もコータローには会えるわ。明日こそ、必ず真相究明よ!」
「シンソーキューメー? なんだよコケマ、難しい言葉知ってんだな」
「ふふん、何たってアタシはKOMOTOの天才少女だからね」
「そんな話、聞いたことないけどな……。まあ、いいや。そういう事にしておこう」
「アタシが考える明日の作戦は……」
「ふむふむ。うん、なるほど!」
まだ何も手を付けていない夏休みの宿題など、そっちのけ。
陽も傾くまで明日の作戦会議をなぜか小声で行った二人は、ワクワク感の隠せない顔のまま、帰宅したのだった。
☆
昨日と同じように非常に暑くなった、次の日。
けれどもこの辺りで“アツイ”のは、気温だけではなかった。
やんちゃ盛り小学生二人の『コータローじいさんの秘密を暴く』という気持ちの熱さも、決してそれに劣ることはなかったのである。
昨日とは違って“ケン玉”をバミューダパンツの後ろポケットから取り出した孝太郎は、昔取った杵柄よろしく、ひょいひょいと鮮やかなケン玉の技を決めて、公園中の少年少女の視線を集めていた。
「ほれほれ、ワシもまだ捨てたもんじゃないじゃろ」