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『路地裏のアパート』内田東良

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 この誘いをお受けした。これがお付き合いの始まりだった。
 会ってみると思った通りの人で、最初はお互いの仕事の話で盛り上がった。徐々に趣味やそれぞれの得意分野の話になってきた。
 彼は真面目なだけではなく、ユーモアも寛容の心も持ち合わせていた。
 四度目のデートの日に、「次会うときは、僕の両親に会ってくれないか」と切り出されたのだ。
 彼には好感を持っていたけれど、彼の実家が蒲田だと、そのとき初めて知らされた。
「私、蒲田が大嫌いなの。あなたの実家に行くのはいいのですが、蒲田には行きたくありません」
 まったく矛盾していて、不可解な言い草だ。私の胸のうちではこういう言い方しかできなかった。
 彼は白い歯を見せて笑った。
「何か、過去にあったんだね。よかったら全部残らず教えてほしいな」
 彼は生まれも育ちも蒲田だった。蒲田の今も昔も愛していた。その蒲田を否定する人物が目の前にいて、興味が湧いたのだろう。
 彼はショルダーバッグから地図を取りだした。テーブルに蒲田の全図を広げた。
「どの辺りで、嫌なことが起きたの」
 地図は彼の蒲田自慢のために持参したらしいのだが、私の蒲田嫌いの原因となった場所を特定するために使われるはめになった。
 私は迷わず、小学校を指差した。
「やはり、同じ学校だよ。僕が三年先輩になるな。小学校で何か、あったんだね」
 私は深く頷く。同じ小学校の出身だったのは素直に嬉しかった。
 彼の手にかかると、犯罪者は誰でも白状してしまうのではないだろうか。答えやすいものから順に犯人に示す。そうすると知らないうちに犯人は全容を喋ってしまう。
 もっとも私は犯人ではなく、被害者だ。
同じクラスのあいつからこんな陰湿ないじめにあった。その体験の数々と思いの丈を彼にぶつけた。
彼は私の身になって、全身で傾聴してくれた。
「そのときはどこに住んでいたの。サッちゃんは」
 私は躊躇いもなく、地図上にある蒲田西商店街にほど近いアパートを指差した。
 小学校四年生までは楽しかったのに、小学校五年の時のクラス替えがきっかけであいつと同じクラスになった。あいつに目を付けられたのが地獄の始まりだった。
 小学校六年のある日から私は不登校になった。どうしても学校へ行くことができなくなった。
 自宅の学習机の下に潜り込んで、動かなくなった。

      3

 階段を駆け下り、彼に抱きついた。
「やはり、ダメ。帰りましょう」
 それだけ言うのが精一杯だった。

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