「こうしたらさ、おじさんみたく復活するかなって」
面白い子だと思った。そんな魔法のようなことはあり得ないのに。しかし、自分が直面している現在の方がよほど魔法のようなことが起きている。
「博士、生きているよ」
泰は考える。何故、自分たちは固まらなかったのか。何故、固まったおじさんは復活したのか。自分と太郎の二人は最初から固まらなかった。おじさんは最初、固まっていた。
何故? なんで? どうして? 理由は? ホワイ?
俺たちとみんなとの違いは……。考えを巡らせると一つだけ思い当たった。
『蒲田温泉』の湯の中に潜っていたことだ。
恐らく日本を、世界を、宇宙を探しても、あの瞬間に蒲田温泉の湯の中に頭から爪先まで埋めていたのは、自分と太郎だけだろう。そう仮定してみる。では、あのおじさんは?
太郎が濡らしたから? 温泉にこの状況から保護する何かが含まれているのか……?
あくまで仮定だが、今の所それしか浮かばない。
試そう。
「太郎、温泉に戻るぞ」
「ひゃーはっは!」
太郎が湯おけに湯を汲んで、ロビーのおっちゃん三人にかけると何事もなかったかのように動き出し、大笑いの続きを始めた。だが、テレビは消えていたのでその笑いはそっと収斂した。それを合図に泰と太郎は説明をした。
街全体の人々に湯をかけていく作業を二人だけで行うのは不可能だ。そこで、街の人々の助けを得ようと考えたのだ。
二人の話を信じたのか、それとも暇なのかは分からないが、おっちゃん三人は、手助けを快諾した。だが、一人が二人へ、二人が三人へとねずみ算的にやるのもかなりハードな作業である。それに湯をかけ、声をかけた全員が参加してくれるとは限らない。と一人のおっちゃんが禿げ上がった頭を撫でながら言った。
すると「ならまとめてぶっかけちまおう」と一番小柄なおっちゃんが唾を飛ばしながら言い放った。それを受けて太ったおっちゃんが「そりゃ、いい案だんべ」とこの辺りの方言丸出しで大きく頷いた。
意気軒昂であったが、「どうやってやるの?」と太郎の素朴な質問に一同は黙った。
この街全体に行き渡らせる方法……。この湯の雨でも降らせることが出来ればと泰は思うが、そんなことは不可能だ。では、上空から撒けば良いのか。どうやって? ヘリコプターもない。ああ、空あり、スプリンクラー完備だったなら良いのに。
だが、ここで閃いた。
観覧車。
観覧車を高速回転させてプロペラ付きのスプリンクラーのようにして上空に巻くのだ。そうすれば風に乗ってこの街に行き渡るはず。観覧車は先ほど、手でも動かせることが分かった。それを何人かで力を合わせればできるはず。
泰はこの案を一同に説明した。他にアイデアもあらず、早速それを試そうということになった。しかし、すぐに新たな問題が浮上した。
湯をどうやって運ぶか。
再び一同は頭を抱えた。電気もねえ、車もねえで、どうやって観覧車まで運ぶか。
「人海戦術しかねえべ」