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『Kamata Katamata』室市雅則

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「博士も固まっているかもしれないよ」
 やはり太郎は年齢の割には状況判断もできるし、将来が楽しみな子だと思った。そんな彼の将来を拓くためにも、今を何とかしなくてはならない。
「開けるしかないだろ」
 万が一の場合、破壊さえも考えた泰だが、手をかけると意外にもシャッターはすんなりと開いた。意外な気がした。
 非常事態とはいえども他人の家に勝手に入るのは気が引けた。だから、腰をかがめて入れるくらいまで開けて中に入った。だが、室内は真っ暗であったので、泰は思い切ってシャッターを全て開けた。すると太陽光が室内を照らした。
 酒屋であった頃の名残か、当時を彩った女優が缶ビールを掲げている。今この女優もすっかりな年齢になっているはずなので、一体、いつからここに貼られているのやら。
 棚の配置も当時のままのようであったが、酒の代わりに機械や薬品が並べられていた。
 奥には書類が散らかった机と、うず高く積まれたスーパーの弁当殻があるだけであった。
「いないね」
「ああ」と泰は諦めきれずに机を眺めた。写真立てに飾られた一枚のモノクロの写真に気が付いた。そこには『プラザランド』の観覧車の前に並んで学生服姿の博士とその妻の夏子が写っていた。博士もここでデートをしたのか……。この頃の二人を知っている泰は懐かしいなと思って、写真を見つめると不思議なメモを見つけた。
 腕時計のような機械と観覧車の絵が描かれている。そして、その周りに数式が記され、脇に『タイムトラベル』とあった。
 もしや、博士が原因か?
「観覧車に行ってみよう」
「遊んでいる場合じゃないよ」
 泰がメモに描かれた観覧車を指差した。
「博士がいるかもしれない」
 二人は東急プラザの屋上へと向かった。

 観覧車には九つのゴンドラがあった。
 一番下から時計回りに順番に見て行くと、ちょうど頂上のあるものに、福禄寿みたいな老人一人が乗っていた。他は空であった。泰と太郎で支柱に登って、観覧車の背面から無理矢理に車輪を手で回転させ、老人がいるゴンドラを地面に移動させた。
 乗っていた老人もきちんと固まっていた。
「博士?」
「多分」
 面影はある。だから博士だと思う。だが、それにしても老けたなと思った。もちろん自分も老けた。しかし、博士の手の甲の皺には自分の職人の手とは異なる労苦が刻まれているように見えた。
 博士は目を瞑り、手には先ほどのメモにあった機械を握り、そのゼンマイを摘んでいる。
 タイムトラベル、数式、機械……。そして、博士とその妻の写真。泰の疑念は確信に変わった。この蒲田が固まったのは博士が原因であったのだ。理論も原理も分からなかったが、博士がタイムトラベルを起こそうとし、蒲田が固まってしまったのだ。
 きっと、だけど……としみじみ泰が博士の顔を見ていると、太郎が銭湯のおじさんにしたように博士の胸に耳を当て始めた。

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