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『僕の中のピンク』藤井あやめ

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 僕の言葉は答えを欲しがって、いつもより早口だった。
 ゴンドラが頂上に着く。

「…妹が産まれても、母さんは僕を忘れたりしないかな。」

 僕の声は小さくかすれていた。誰にも言えなかった事。
 ゴンドラは相変わらずユラユラと、僕の気持ちの様に揺れている。
 伯父さんはニッコリして、明るい声で言った。

「竹ちゃんは俺の同級生なんだ。うどん屋のみっちゃんも、八百屋のおっちゃんも、みんな祐が生まれるのを楽しみにしていてね。」

 そうだ。
 前に聞かされたことがある。
 母さんは蒲田の病院で僕を産んだ。
 僕たち家族も、しばらく蒲田で過ごしていたらしい。

「あの真理ちゃんの子供だぞ!って、みんな祐が可愛くて可愛くてしょうがなかったんだよ。祐は私の宝物だって、母さん言って歩いてたんだぞ。」
 母さんが小さい僕を連れている姿が目に浮かぶ。

「そのお母さんが、祐を忘れるはずがないだろう。」
 伯父さんの声は優しく、でも、力強かった。

 何故だかわからないけど僕はその言葉が、
 ゴンドラの中で聞いた伯父さんの言葉が、
 僕の中のピンクのモヤを、体の外へ連れて出していった。

 気づけばもう一周が終わり、係りの人がドアを開ける準備をしている。
 僕は少し名残惜しい気持ちでゴンドラを降りた。
 伯父さんも降りる時はスムーズに降りることができた。
 足がまだフワフワする。そして、心が少し軽くなった気もする。
 僕達は伯母さんに頼まれた珈琲豆を買って、家に帰った。

 夕飯の後、伯父さんはさっそく珈琲を飲みながら、テーブルの上の向日葵の様子を見ていた。
 帰るなり伯母さんに「頼んだ豆と違う。」と怒られていたけど、そんなおっちょこちょいで、体も声も大きくて、豪快な伯父さんが花を気にするなんて、なんだか可笑しかった。

「祐、ちょっと来てごらん。」
 伯父さんに呼ばれてソファーに座る。
 小さなアルバムが置いてあった。

「あら、いいわね!」

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