地上の時とは違う、まだ地面に触れていない産まれたての爽やかな風が吹き抜ける。
僕たちは、迷わず観覧車の方へ進んでいった。
ウッドデッキの上にはベビーカーを囲む家族や、制服を着た学生達が思い思いの時間を過ごしていた。のんびりとくつろぐ人達を見つめながら、カラフルな観覧車もまた、のんびりゆっくりと動いている。
「ここに来たらやっぱり乗らなきゃな、えーっと、300円だったな。」
伯父さんは、僕に聞くこともなく当たり前のように観覧車のチケットを買い、列に並んだ。
平日だったせいか、5組ほどの列ですぐに乗れそうだ。
本当は大好きだった観覧車。母さんと二人で乗った観覧車。
でも、もう乗らなくていいと言ってしまった 。
母さんが「もうすぐお兄ちゃんになるのよ。」と言ってから、僕は少し背伸びをしていたんだ。
隣で伯父さんは、「何色になるかなぁ。あ、黄色になるかもしれないぞ。」と観覧車相手にも騒がしい。並んでいる子供達よりもよく喋るので、僕は少し恥ずかしくなった。
ようやく僕たちの番になった。
途中でトイレに行く子供が抜けたので、僕たちはピンク色のゴンドラになった。
心の中のモヤモヤが反応する。
ゴンドラの動きを合わせて素早く乗り込む。
僕が先に乗って、伯父さんが後から乗り込む。
伯父さんは少しモタモタしていたので、係の人が「はい、今です。」と掛け声をかけてくれた。
ドアが閉まり、ゆらゆらとゴンドラは登り始めた。中はオレンジ色のシートで、静かな空間だった。伯父さんが派手に乗り込んだお陰で、隣のゴンドラよりも揺れている気がする。
「祐の家は…あっちの方かな。」
僕は知っていた。母さんが乗るたびに教えてくれたから。
「小さい頃、伯父さんもよく祐の母ちゃんと乗ったんだよ。どの色にするかよくケンカしたもんだよ、懐かしいなぁ。」
腕組みしながら、伯父さんが遠くを見ている。
小さな空間。
空が近くなるにつれ、気づかないうちに僕の心が言葉となって漏れていた。
「妹ってどんな感じ?お兄ちゃんになるってどういうこと?」