「祐ちゃん、この部屋を好きに使っていいからね、まだハルの荷物があるんだけど。」
そう言って伯母さんが案内してくれたのは、2階の奥の部屋。
今年から新社会人になったハル君は、会社近くにアパートを借りて住んでいる。
伯母さんの話だと、アパートは狭くてほとんどの荷物をここに置いるそうだ。
僕はハル君と何度もこの部屋で遊んだし、ハル君が伯母さんに内緒で買った、少し高いプラモデルの隠し場所も知っている。
でも、今日は僕一人だ。
少し埃で曇った窓ガラスから外を覗く。さっき歩いてきたサンロードが見えた。
大きなアーケードが、道を裂いて伸びている。
伯母さんが下に降りたのを確認した後、僕は押し入れの一番奥にある秘密のケースを開けてみた。
あのプラモデルは見当たらなかった。
「ハル君、持っていったんだ。」
僕は嬉しかった。
きっとアパートでは暗い押し入れの中じゃなく、きちんと見える場所に飾られて、ハル君の帰りを待っているのかもしれない。
僕はごろんとベッドの上に寝転び、母さんの事を考えた。もう父さんは病院についたかな。
もしかすると、今この瞬間に赤ちゃんが産まれたかもしれない。
その時、どこからか赤ちゃんの泣き声が聞こえた気がした。
ずるずると体が重たくなっていくのを感じる。瞼を閉じ、肩の力が抜けていく。
僕はそのまま、夕食も食べず眠ってしまった。
2
朝起きると、暖かい毛布の中にいた。
叔母さんか叔父さんが掛けてくれたんだろう。
口の横に違和感を感じる。たぶん口を開けて寝ていたんだと思う。よだれの跡がついていた。
僕はボストンバッグから取り出した服に着替えて顔を洗い、ゆっくり一階へ下りていった。
「おはようございます。すみません、寝坊しちゃって。」
「おはよう祐ちゃん。昨日は疲れちゃったよね、よく眠れた?」
叔母さんは、のそりと現れた僕を見るなりせっせと朝食の支度を始めた。
もう9時だ。
ガチャッと玄関のドアが開く音がして、伯父さんがリビングに入ってきた。庭で何かやってたようだ。
「祐、昨日の夜無事に赤ちゃんが産まれたぞ!」
伯父さんは僕の顔を見るなり開口一番そう言った。