僕は友達という言葉が苦手になっていた。耳にするのも口に出すのも避けたい言葉。僕は何の反応もできず、ただ、これまで見ていた視界を僅かに下げた。
「壮太、大丈夫だ。君は私の大切な友達だ」
おじいさんの言葉は、僕の心の奥深くにそっと置かれた。
毎週、日曜日の朝は挑戦屋へ行くのが決まりとなった。
カードを買い、椅子に座っていちご水を飲みながら、少しずつ増えてゆくカードを眺める。そして、その後はおじいさんと話をして過ごすのだ。もっぱら、おじいさんの昔話だったが、僕はそれが大好きだった。おじいさんの話に耳を傾けながら、今でも未来でもない僕の知らない遠い過去に想いを馳せていた。
店を出ると、大安売り中の商店街は多くの人で溢れていた。
慌ただしく行き交う人達。
幸せそうな笑顔に溢れた家族。
突然、僕は取り残されているような感覚に襲われた。僕は立ち尽くし、商店街の向こう、ビルの隙間に青い空を探した。
「遠足のお菓子は300円までですからね」
秋の遠足は四季公園に行く予定で、『帰りの会』の時間に鎌田先生からの事前説明とグループ分けが行われた。電車移動、現地での行動は各グループで行うそうだ。くじ引きで決めたメンバーの表情からは、僕の存在に複雑な表情を読み取ることができた。それでも気をつかってマサキ君から「一緒だね」なんて声をかけられて。だけど、僕は「だね」と表情を変えることなく返すので、そこで会話は途切れた。
帰りの会が終わっても遠足の話で盛り上がるクラスメイト達を横目にして、僕はランドセルに教科書を入れると、そそくさと教室を後にした。
帰り道。僕の前には誰もいない。
今日は少し気楽に挑戦屋の前を通り過ぎる。ちらりと覗き見た店内には、低学年の子たちが数人いて、なにやら騒がしい。いつもの賑やかさとは違う騒然とした様子に、僕は胸騒ぎがして急いで店の中へと飛び込んだ。
慌てふためく子たちの傍らには、意識無く倒れているおじいさんの姿があった。「どうしたの」と尋ねても、混乱していて状況が分からない。おじいさんの肩を叩きながら大きな声で呼び掛けるが、全く目を覚まさない。僕は急いでレジの横にある電話の受話器を取った。
僕の人生で二度目の救急要請だった。