「いいよ。無理に来る必要はないさ」
「おじいさん」
「なんだい」
「おじいさんは一人暮らし?」
「ああ、そうさ。3年前、妻に先立たれててね。一人息子と孫がいるけど、遠くに住んでいるから会うのは盆と正月くらいかな」
「寂しくない?」
「寂しくないよ」
なんで?と聞こうと思ったが、くだらない質問だと気付き、咄嗟に質問を切り替えた。
「なんで『挑戦屋』っていうの」
「いい質問だね」
おじいさんはレジ横の箱を手に取ると、テーブルの上に置いた。約20センチ四方の青い箱には、大きく赤い字で『クジ引きガム』と書かれている。箱の中央付近には黄色いボタン、その下にはガムが転がり落ちてくる穴がある。
「赤いガムが出たら100円分のお菓子を選ぶことができる。青いガムなら50円、黄色いガムは30円だ。押してごらん」
僕は言われたとおり黄色いボタンを押した。ゴロッと箱の中でガムの山が崩れる音がすると、続いてコロコロと軽快な音を立て白いガムが転がり出てきた。
「残念、ハズレ」と、おじいさんは笑いながらガムを僕に手渡した。
「他にもいろんなクジや当たり付きのお菓子がある。こうやって、子ども達が挑戦するから挑戦屋だ。私が名付けたんじゃなくて、いつからか子ども達が言い始めた」
ガムを口に含むと、砂糖の甘みが口中に広がった。
「今日はちゃんとお金払うから、次は違うのやっていいかな」
「ああ、もちろん」
この小さな空間で過ごす時間に、僕はまるで遊園地にやって来たかのような胸の高鳴りを感じた。
小さなキャラメルの袋の内側や、アイスキャンデーの棒には『アタリ』が隠されていて、チョコレート菓子には、キャラクターのシールが付いている。硬貨を入れてレバーを回すとカードが出てくる機械にはいろんな種類のカードがあって、なるほど、これを使って皆んなは対戦しているのだと知った。買い揃えられたゲームなんかよりも、ずっと好奇心を掻き立てられる物で溢れていた。
「面白いかね」
「うん」
「友達と競い合うと、もっと楽しいぞ」