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『出会い、別れ、思い出の街』ウダ・タマキ

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 取引先との約束時間に遅れそうで、全体重をペダルにかけて力一杯立ち漕ぎする。周りの景色は、ただ曖昧な形でとらえるのがやっとのスピードで流れてゆく。少し視線を落として確認した腕時計の時刻は13時25分。約束の時間まで、あと5分。このペースを保てば時間通りに到着するはずだったが、無情にも大通りの信号が赤に変わる。力一杯ブレーキを握った。自転車がけたたましい無機質な金属音の悲鳴をあげる。周囲から注がれる視線。停まって初めて気付く息切れと足の張り。ポケットからハンカチを取り出して、額から流れる汗を拭い、さっき見たばかりの時計で13時26分を確認する。たかが1分の経過さえ、焦る気持ちが煽られる。
 穏やかに流れる昼下がりの時間。どうやら、僕一人だけがその流れを無視しているようだ。一つ大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせると、ほんの僅かな遅刻を逃れる為、必死になっていることの虚しさが僕を襲う。

 何やってんだか……

 周りの景色に目をやると、通りに沿って整然と建ち並ぶマンションや民家の群。味気ない冷たい表情をした建物に挟まれ、肩身を狭そうにこじんまりと佇む一軒の駄菓子屋が視界に飛び込む。まるで街に埋もれてしまいそうな小さな間口の店は、この場所に数十年は存在していそうな、時代に取り残された佇まいだ。
 その姿は、僕の頭の中に幼き頃の記憶を蘇らせた。時間がもどかしい程、ゆっくりと流れていたあの頃の記憶を。

 その街に引っ越してニヶ月が経った頃だった。
 これまで母さんの仕事の関係で全国各地を転々としていた僕は、転校を繰り返していたので友達と言える友達がいなかった。どうせ友達を作ってもすぐに別れがやって来ることを知り、いつからか作る努力さえしなくなっていた。仲良く遊ぶクラスメイトを見て、羨ましく思いながらもそれを仮面の下にひた隠し、少し遠目から「僕には友達なんて必要ない」なんて大人ぶった顔をして。

 一人で帰る通学路の前方には、先を行くクラスメイト達の姿。僕は反発しあう磁石のように一定の距離を置いて歩く。
 いつも、決まって彼らを追い抜く場所があった。それは通称『挑戦屋』という商店街にある駄菓子屋だ。古びた看板には『安田商店』とあるが、クラスメイトはそう呼んでいた。
 皆んな、帰り道には挑戦屋に立寄るのがお決まりとなっていた。帰宅途中の寄り道は禁止されていたが、挑戦屋に関しては古くからの伝統のような、規則を超越する何かがあって、先生達の中でも暗黙の了解となっているようだった。

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