平日の夕方。人通りの疎らな商店街だが、挑戦屋だけは小さな熱気で満ち溢れていた。
店の前を通り過ぎる時に聞こえる楽しそうな賑やかな声、外からチラリと見える色鮮やかなパッケージのお菓子。子どもの僕に惹きつけられない理由は無かった。
「ただいま」
誰が居る訳でもないのに、毎回欠かさず言うようにしているのは、寂しさを紛らわすため。だけど、その声は誰にも届くことなく、すぐに掠れて消えてしまう。そして、この瞬間、僕はいつも考える。父さんがいてくれたらな、と。
テーブルの上には寂しげな顔したおやつが僕の帰りを待っていて、それを食べながらリビングでテレビゲームをして時間を潰す。最新のゲーム機に、ジャンルを問わず揃った数多くのソフト。大画面のテレビは壁一面を覆うほどの大きさ。母さんの映画好きが講じて音響設備も充実しており、まるで映画館のような臨場感ある音が響き渡るのだった。しかし、満たされた物に相反して、僕の心は少しも満たされていなかった。一人きりの部屋に響く感情の伴わない銃の音は僕の心を撃ち抜き、そして虚しさだけを残す。
少し乱暴に電源を切り、ゲームをやめて部屋にこもると、真っ白な天井を眺めながら、ゆっくりと流れる時を過ごした。
いつ、次の街に引っ越すのだろうかー
一人で過ごす時間。頭の中には、そんなことばかりが浮かんでくる。
日曜日の朝。母さんから牛乳を買いに行くように頼まれた僕は、商店街へと向かった。休みの日に商店街を歩くのは初めてだったが、多くの人で賑わいを見せている。しかし、それに反して挑戦屋には平日夕方の賑わいはなく、閑散としているのだった。僕は少し歩くスピードを緩め、それとなく中の様子をうかがった。すると、店内から「こんにちは」とおじいさんの声が聞こえ、僕は思わず「うわっ」と一瞬たじろいだ。
その様子を見てニコリと微笑むおじいさんは「驚かせてごめんよ、良かったら中に入ったらどうだい」と、僕を店内へと招いた。いつも前を通り過ぎる時、遠目に見ることしかなかったおじいさん。白く長い顎髭と目尻に深く刻まれたシワ。少し曲がった腰は、杖を支えにしてなんとかバランスを保っている。まさに『おじいさん』を形容する典型のような容姿をしたおじいさんだった。
「僕、牛乳買いに行かないと」