箸で肉を掴んだ瞬間、娘から飛び火が飛んできた。
「いやぁ、親子だなぁと思ってね」
「はぁ?!」
二人の鋭い視線が私に向けられる。私の発言が二人の怒りを増幅させたことは間違いない。私はゆっくりと顔を翔に向けて、笑顔で言った。
「翔、あとで良いものあげるからな」
「ほんと?やったぁ!」
翔の元気な返事と笑顔で、その場を切り抜けた。
孫の力は、偉大だ。
食後、翔は目を輝かせながら私の部屋にやってきた。
「おじいちゃん、良いものって、なに?」
「お、これだよ」
私はかわいく包装された箱を渡した。
「お母さんには内緒な」
「うん!」
包装紙を勢いよく破る翔。子供には外見なんて関係ない。肝心なのは中身だけだ。
「あ!これ、古い形のやつだ!」
翔は嬉しそうにバスを手に取って眺めた。私が昔から与え続けたからか、いつしか翔もバスが好きになっていた。
翔は興奮して、美鈴のいる茶の間へと走っていった。
「おかあさーん!」
「あ…翔!」
言ったときには既に遅かった。
「お父さん!だから!毎回おもちゃ与えないでって言ってるでしょ!」
遠くから美鈴の怒り声が飛んできた。
私は聞こえないふりをして、しばらく自分の部屋で横になることにした。
翌日、私は巡回バスの担当だった。早起きした翔は、眠い目をこすりながら私についてきて、バスに乗った。扉側の一番前の席が翔のお気に入りの席だ。
商店街近くのバス停から、でんちゅーが乗ってきた。
「よぉ、翔ちゃん。おっきくなったなぁ」
突然声をかけられた翔は、ビクッとして後ろの席に座ったでんちゅーを恐る恐る見た。
「でんちゅーおじさんだよ。覚えてるか?」
「…あ!おもちゃ屋のでんちゅー!」