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『妻よ、君がその手を離すまで』籐子

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 使い込んだシートの皮の匂い。
 差し込む春の日差し。
 朝の通勤ラッシュで都心へ出ていく人々を見送り、車庫に戻って交代のドライバーを待つこの時間が、私の至福の時だ。
 バスの運転手になって、もう40年。
 バスの運転手だった父の影響で、幼い頃からバスに乗るのが好きだった私にとって、この仕事は天職だ。

 誰もいない車内。
 後部座席の真ん中に座り、全身を広げて車内の香りを胸いっぱいに吸い込む。
『バスの匂いは、この町の匂い』
 これは父から譲り受けた言葉。バスは、ここで暮らす人々の生活の匂いがする。
 私は、生まれ育ってきたこの町の匂いが、大好きだ。

「寛太郎さん、またやってる」
 にやにやと笑いながら、後輩の宮本が入ってきた。
「いいじゃないか、こうできるのもあと1ヶ月なんだから。じいさんの最後の楽しみなんだよ」
「そんなこと言って、変な姿勢して腰痛めないでくださいよ!定年までしっかり働いてもらわないと!」
「ったく、生意気な後輩だよ」
「はい、私が生意気な後輩です」
 宮本は歯を見せて笑った。憎めない後輩だ。
 年齢は20以上も違うが、バスを好きな気持ちは同じ。同じものを好きな者どうし、仲良くならないわけがない。
「じゃ、午後は頼んだよ」
「了解っす。あ!あと、定年祝い、何がいいか決めといてくださいね。所長に早く聞いてこいって追い立てられてるんで」
「定年祝いなぁ。別にしてもらわなくてもいいんだけど…」
「ダメダメ!所長は寛太郎さんの事大好きなんだから、やりたくて仕方ないんすよ。所長のためにも、考えてやってくださいよ」
「はいはい」
「じゃ、そういうことで!」
 そう言って、宮本は軽快にバスを走らせていった。

 あと1ヶ月で、この生活が終わる。
 そのあと…私はどう生きていくのだろう。

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