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『妻よ、君がその手を離すまで』籐子

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 今日は午前で仕事を上がらせてもらった。久しぶりに娘の美鈴と孫の翔が帰ってくるからだ。帰り道の商店街で、私は馴染みのおもちゃ屋に立ち寄った。ここは数多くのミニカーが置いてある。
「よ、寛ちゃん。今日もプレゼント選びかい?」
 ちょび髭をはやしたひょろっとした男が奥から出てきた。幼なじみので“でんちゅー”だ。細くて背が高くて、いつも顔色が悪い。まるで「電柱」のようだから“でんちゅー”。
 幼い頃のあだ名の単純さが、この歳になると妙に愛着が湧いてくる。
「あぁ、娘にはいつもいらないって言われるんだけど、ついな」
 息子にバスのミニカーを買ってあげるのが私の夢だったが、我が家は一人娘なので、ついつい孫の翔に買ってしまう。
「息子より娘の方が絶対にいいと思うぞ、俺は」
「なんで?雄一くんは、最近どうしてるんだよ?」
「相変わらず、高層ビルのジャングルで“IT”だの“SNS”だの、よく分からん横文字の世界で働いてるよ。さっさと結婚して孫の顔でも見せてほしいんだけどな」
 陳列した商品をハタキで叩きながらぼそぼそと呟くでんちゅーをよそに、私は翔にあげるバスを真剣に選んだ。この店は、店主は冴えないが、商品のセンスだけは間違いない。

 翔へのお土産をもって家に帰ると、まだ二人は来ていないようだった。
「こんなに早く帰ってくることないのに」
 妻は昼寝をしていたようで、寝ぐせのついた髪をなおしながら、不機嫌そうに私を出迎えた。
「ごめんごめん、二人が来ると思うと、なんだかそわそわしてな」
「子供じゃないんだから」
 不機嫌だった妻の顔が少し緩んだ。妻はそのまま右足を引きずりながら台所へ向かった。

 美人で気の強い妻は、昔から多くの男に言い寄られていたそうだ。ちやほやされた華やかな時代を楽しみ、30歳を過ぎて婚期を逃した事に気付いた妻は、周りの男たちの態度の急変を目の当たりにしていた。

 男に振られた日の夜、彼女は終電のバスでひとり、泣いていた。私はミラー越しに映る彼女の姿がずっと気になっていた。
 終点の駅についても、彼女は降りない。私は運転席から降り、お尻のポケットに入ったしわくちゃのハンカチを、彼女に差し出した。
「…しわしわ」

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