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『妻よ、君がその手を離すまで』籐子

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 そう言って彼女はうるんだ目で私を見上げ、笑った。それが私たちの始まりだった。
 彼女は人の優しさに飢えていたのかもしれない。
 そうでなければ、こんな平凡な男を選んでくれるはずがない。案の定、結婚してからの妻の口癖は「私は何を誤ってあなたを選んだんだろう」だ。

「はい、お茶どうぞ」
「ありがとう」
 そんな事を言いながらも、いつも私の為にお茶を入れてくれて、おいしいごはんを作ってくれて、何より、ずっと傍にいてくれる。
“プライドの高い人間は、言葉でなく行動で愛情を示す”
 何かの本で読んだ事がある。妻はまさにそのタイプ。
 私はというと“言葉でも行動でも愛情を示す”タイプだろう。
 私のプライドなど、妻の足下にも及ばない。

「足の調子はどうだい?」
「相変わらず。今日もデパートまで行こうかと思ったんだけど、公園の所で引き返しちゃった。やっぱり一人じゃ、あそこが精一杯ね」
 妻はデパートで買い物をするのが好きだった。私たちの世代にとって、デパートは楽しみの宝庫であり、今でもその感覚は抜けない。
「公園で休憩しようと思ってね、ベンチでぼーっとしてたのよ。そしたら、男の子達が砂を投げ合って遊び出したから、『こら!』って叫んだの。そしたらその子達、『キツネのばーさんだ!』って言いながら逃げていったのよ。誰がきつねのばーさんよ!ねえ?」
 真剣に話す妻の顔は、大きな目が吊り上がり、確かにキツネのように見えた。
 私は思わず吹き出してっしまった。
「ちょっと、なんであなたも笑うのよ?」
「ごめんごめん」
「失礼ね、ほんっとに」
「すいません」
 私は笑いながら頭を下げた。
 美人は年齢を重ねると、その大きな目が少しきつい印象を与える。

「よし、じゃあ二人が来るし、そろそろ準備しようか」

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